慈濟傳播人文志業基金會
訓練期間を短縮して良医を養成する
台湾で唯一の献体による遺体は急速冷凍保存され、
無言の良師は医師に本当の患者への手術と変わらない
最高の手術の学習機会を与えてくれる。
「無言の良師」の模擬手術課程で、医学生は緊急手術の基礎と自信を得る。
ベテラン医師も手術の腕をさらに磨き、新たな技術を練習し、
より高度な挑戦に立ち向かう。
 
ライン川に沿ってオーストリアへ向かう汽車の中で、林欣栄は窓の外の光景を眺めながら、ドイツで三日連続で受講した「鍵穴手術」(keyhole surgery)内視鏡手術の原理と方法について考え、大脳臨床解剖について復習していた。
 
「台湾にはない優れたものを世界に学びに行く」。二十数年前、国防医学院教授の林欣栄は、一流の医療技術を学ぶためには時間と金銭を惜しむことはなかった。
 
従来の開頭手術では、頭蓋骨を切開し、病巣を摘出、鋼線で頭蓋骨を固定し、筋肉と皮膚を縫い合わせる。傷口がより小さく、リスクがより低く、患者の術後の回復も早い内視鏡手術のことを知った彼は、いてもたってもいられず、十五万台湾元の授業料を支払い、高価なヨーロッパ行き航空券を購入した。
 
セミナー四日目、世界各国から来た神経外科医がウィーン大学で、同大学の遺体を使って実際の操作を学んだ。遺体はホルマリンで保存され、その他の部位はすでに使用済みで、セミナーに参加した医師たちは残された頭部を用い、複雑な神経や血管をいかに避けて安全に頭蓋底の髄膜腫、血管腫、脳下垂体腫等の手術を実施するかを学んだ。
 
●医師(右端)が内視鏡を操作している。内視鏡の扱いは難しく、微小な動作が患者に与える影響は大きい。無言の良師は実際の手術により技術を訓練する機会を新米医師に提供する。
 
医療技術と機器の導入に伴い、台湾の脳腫瘍患者は必ずしも開頭手術をしなくてもよくなった。術式を普及させるため、林欣栄は一九九八年、「第一回頭蓋底手術セミナー」を開催した。当時、台湾の各医大では解剖教育のための遺体が不足しており、海外から十二の頭蓋標本を取り寄せ、医師四人に一つ、一回に四十人の神経外科医が練習した。
 
西洋医学の力を借り、輸入した頭蓋標本を活用して医療技術を向上させることで、林欣栄はより多くの台湾の患者を救うことができるようになった。彼にとって最も幸福だったのは、二〇〇二年、鍵穴手術で父親の頭蓋内血管腫を摘出できたことだ。父親の眼皮上方にメスを入れ、側頭葉と前頭葉の中間に三センチの小さな穴を開け、病巣を無事取り除くことができた。
 
林欣栄が頭蓋標本を輸入して頭蓋底手術ワークショップを開催したのと同じ頃、證厳法師は病院を建設し、医学院も開設することになった。法師の呼びかけで、慈済医学院で使用される遺体は全て無償の献体を用いることになった。
 

一風変わった「師弟制」

 
「献体された遺体が分解されると聞くと、東洋では献体したいと思う人はいないでしょう」。慈済大学解剖学科教授兼模擬医学センター主任の曽国藩は、東洋と西洋の医学教育上の違いを指摘する。しかし法師の理念は社会の期待に沿ったものだ。二十年後の今日、外科医の先進的な術式はますます高度化している。高価な海外のワークショップや、輸入した冷凍の胴体を使って実施する研究や教育もあるが、林欣栄にとってより便利な訓練センターは、慈済花蓮病院院長事務所から徒歩で五分の距離にある慈済大学「模擬医学センター」だ。
 
 
慈済大学模擬医学センター
 
►2008年、花蓮市で設立される。
 
►年に8回模擬手術が行われ、若い医師たちは臨床技術を磨き、
    経験豊富な医師は手腕を見せている。
 
►対象者は慈済大学の医学生と海外の姉妹校及び海外の大学から
    申請した医学生、慈済医療体系に属する医師、台湾外科学会と
    アジア医学会のメンバーなどである。
 
 
二〇〇二年、慈済大学医学部第二期卒業生に対して、模擬手術教育を試行。二〇〇三年、手術台八台を擁する模擬手術室を設置し、実習医師のための定期的な侵襲式臨床操作の教育と訓練が始められた。二〇〇八年、更衣室、機器洗浄室、計器及び医療機器保管室、インタラクティブ教室など、十全な施設を備えた、完全独立運営が可能な模擬医学センターが成立した。現在までに毎年八回模擬手術教育を実施、慈済大学、海外の姉妹校の医学生、慈済病院の外科医や国内外の外科医学会メンバーが参加している。
 
模擬医学センターには手術台が八台あり、機器は手術室の規格を満たしている。近年にはレントゲン撮影機器、ハイエンド超音波などが導入され、医師は画像や映像を基に正確な手術ができるようになっている。
 
「模擬医学センターの資源を利用して、私たちは心臓の低侵襲手術など、多くの手術を発展させてきました。患者は必ずしも開胸する必要はないのです」。慈済花蓮病院心臓外科医の張睿智は、慈済大学を卒業後すぐに同病院に勤務して今に至る。彼は模擬手術試行の一期生で、遺体解剖、模擬手術により外科の道に進んだ、慈済が育成した外科医である。
 
「無言の良師の身体で試すことで、実際の患者さんの身体で手術を行う自信ができます」。張睿智は最近三、四年間に心臓弁膜手術、冠動脈バイパス手術など、低侵襲手術の研鑽を積むことができたことに感謝している。
 
●今年6月、シンガポール、アメリカ、ポーランドなど海外の医学生も参加する無言の良師の起用式典が開催された。一年に4度実施する医学生模擬手術課程は、慈済大学の医学生以外に海外の姉妹校、その他の大学の医学生も見学できる。
 
慈済花蓮病院ではダ・ヴィンチ・ロボットアームを導入している。張睿智が冠動脈バイパス手術を行った患者は、手術の翌日には座って朝食を摂ることができ、こんなに嬉しいことはないと患者本人も喜んでいた。
 
台湾からドイツまでは飛行機で十三時間、慈済花蓮病院から慈済大学までは歩いて五分。林欣栄と張睿智は世代も医学を学んだ背景も異なる。
 
張睿智は、本や雑誌、映像や専門医療ウェブサイトなど多くのルートを通して、手術の方法の知識を得ている。尊敬する師や先輩から直接教わったものだとしても、重要なのは実際に自分が実施する機会があるかどうかだ。
 
無言の良師は教育の「標本」であるばかりでなく、医師を徹底的且つ繰り返し練習させてくれる「教師」でもある。つまり、一風変わった「師弟制」であるということだ。
 
模擬医学センターの貴重な教育資源に慈済病院外科医の支援、そして多くの無言の良師の献身的な「参加」により、学生たちは緊急手術の基礎を固めることができるだけでなく、最新の術式で技術を向上させ、医師にとっての貴重な経験を積み上げていくことができる。
 
●模擬手術室の外で、慈済花蓮病院心臓外科医の張睿智が無言の良師の家族に寄り添う。21年間無言の良師の家族からの励ましを受け続けてきた。今では互いに実の家族のようだ。
 

病人の安全を保証

 
二〇一〇年、慈済病院外科医の紹介で、台湾外科医学会は模擬医学センターでの模擬手術への参加申請を開始した。泌尿器科、耳鼻咽喉科、大腸直腸外科、脊椎外科などが前後して参加、林欣栄の所属する頭蓋底外科も申請を行った。
 
その後、慈済病院泌尿器科の郭漢崇、整形外科の陳英和は、医学会理事長の立場で、アジア太平洋医学会を台湾に招いて年次大会を開催。その期間にワークショップ方式で、慈済模擬医学センターでの学生の医療技術交流を企画した。ヨーロッパ、日本、東南アジアなど十数カ国から医師が集まり、台湾東部の模擬医学センターは、国際的な発展の可能性を拓いた。
 
「こうした医師たちの宣伝、技術の向上と拡大を通して、無言の良師は台湾人に福をもたらすだけでなく、全世界の人々を幸せにします」。郭漢崇はこう話す。
 
二〇一六年九月、内分泌外科医学会のメンバーが模擬医学センターを訪れ、最新の「経口腔甲状腺切除手術」を試みた。
 
過去の甲状腺切除手術では、患者の頚部に傷痕が残ることが多かったため、女性の患者の中にはスカーフを巻いて傷痕を隠す人もいる。頸部ではなく、腋の下や乳頭から切開する場合、ルートが長くなり、切開範囲も大きくなる。
 
内分泌外科医学会理事長の呉鴻昇によると、タイ警察総合病院ではすでに四百例以上の手術が行われ、台湾でも百例行われた。彼が視察したタイの病院の術式は、口腔前庭からメスを入れる方法で、腫瘍が四センチ未満の患者に適用され、術後皮膚表面に傷が残ることはない。だが口腔感染や神経への損傷を防ぐ必要がある。
 
「従来の手術方法と違う手術が、特殊な機材を必要とせず、回復までの時間も同じくらいで、合併症の危険性がより高くなるのでないならば、普及させる価値があります」。呉鴻昇は、「患者さんが手術方法を選ぶことができるよう、より良い方法を学ばなければなりません。医師は経験を積んでこそ、リスクを減らすことができます。慣れない手術により合併症を招くことを防ぐため、献体を利用して医師を教育しなければならないのです」と話す。
 
二〇一八年六月、模擬医学センターに六十数名のアジア太平洋脊椎外科医学会のメンバーがやって来た。幾度も模擬手術に参加し、チームを率いて参加した中国医薬大学付属病院台北分院副院長の陳衍仁は、「畸形矯正手術では頚椎部の危険性が高く、一般にはあまり行われていない。模擬手術のメリットは、医師が新たな試みに踏み出せることだ」と指摘する。
 
「内視鏡の操作は簡単ではありません。内視鏡は内部が長く、外部が短いため、微小な動作が患者に大きな影響を与えます」。慈済台北病院低侵襲手術センター主任の蔡曜州は、泌尿器外科医学会で婦人尿失禁治療の「膀胱頚吊り上げ手術」を担当している。慈済花蓮病院泌尿器腫瘍科主任の江元宏は、「先輩医師の手術はスピーディで技術が優れています。この手術にかかる時間は長くはありませんが、多くの細かい点に注意しなければなりません。そうでないと、手術後も尿漏れが続くのです」と話す。
 
「私は献体してくださった先生の身体で、三回ミスしました」。感謝追憶式典で、医師は正直に告白する。このことは生きた患者の身体でのミスを防いだことになる。無言の良師は患者の生命の安全を静かに守っているのだ。
 
●慈済病院のベテラン医師が学生の基礎術式の練習を指導する。伍超群医師(左から2番目)の通常の手術はスピーディだが、指導の際は一つ一つ丁寧に模範を見せ、手術中の患者の安全について注意を促す。

大きな本土意義

 
二〇一六年十一月、台湾大学と長庚病院整形外科チームが慈済模擬医学センターで顔面と腕の移植手術を実施した。
 
台湾大学病院整形外科医の謝孟祥は、顔面の火傷、交通事故、顔面の腫瘍で広範囲切除を受けた患者に対しては、この精密で複雑な手術治療が必要とされるのだと指摘する。模擬手術で重要なことの一つは、顔面神経の解剖学的細部を詳細に理解することで、献体があってこそ、一層一層を詳しく観察できるのだと言う。
 
当時、台湾美容外科医学会秘書長劉致和は、「慈済の献体には『本土』という意義がある」と指摘した。台湾では過去、解剖学の課程では骨や頭蓋、頸部など、全て海外からの輸入標本を使用していた。
 
「輸入した遺体の標本は西洋人種で、整形外科でよく行われる隆鼻、鼻骨の再建手術について言うと、東洋人と西洋人の鼻骨の高さは異なり、東洋人の鼻肉はより多いのです。人種が違えば血管の分布にも違いがあり、これは医学会が長く討論してきたテーマです。解剖による構造の理解は、手術の安全性にも関連します」。学会で長く討論されてきた疑問を解決することができたと、彼は慈済が機会を与えてくれたことに感謝の意を示す。
 
●模擬手術終了後、参加した学生が恭しく無言の良師を入棺する。「無言の良師」による教育は医療技術と人文精神を兼ね備えている。「無言の良師の身体に敬意を示すことができるなら、患者に対してはそれ以上に敬意を持って接することができる」というのが医学生の感想だ。
 

独創的手術実習

 
慈済台北病院一般外科医の伍超群は、慈済大学初期の模擬手術教育から、たびたび医学生の基礎術式を指導してきた。日頃の手術はスピーディな伍医師だが、メスと縫合針の操作の練習を開始したばかりの医学生たちの前では、辛抱強く一つ一つ丁寧に模範を見せる。彼が教えるのは技術だけではなく、学習態度も含まれる。
 
学生が覚束ない手つきで腹腔を切開すると、メスの跡が歪んでいた。力加減が分からないため、腹腔組織を開くと、メスが腸を傷つけており、空気がゆっくりと腸に侵入していることが分かった。
 
腹腔を切開した時に腹腔下の器官を傷つけることを防ぐため、伍医師はすぐに学生に大学三年で習った「解剖学」を復習させ、メスを引き継ぐと、もう片方の手で腹部の皮膚を上部へ押し開き、一定の距離を取って下部に切り開かないよう注意するのだと指導した。
 
「患者の安全は何よりも大事です」と話し、伍超群は学生が先ほど不注意に傷つけてしまった腸への処置を行った。ミスにより傷ができた場合、すぐに穴を縫合しなければ、手術後に患者に腹膜炎等の症状が出て、再度手術しなければならなくなる可能性がある。
 
縫合は外科手術の基本である。腹膜上面には二層の組織があり、縫合する時は対称でなくてはならない。学生が糸を取り違えたり、縫合する層を間違ったりした時、伍医師は学生に、そうしたミスは術後の傷口の癒着に影響を与え、感染症を引き起こす可能性もあると指摘する。
 
「胸を張って、肩の力を抜き、手に力を入れすぎない。顔を患者に向け、優雅に縫うんです」。伍超群は模範を見せ、手術台の高さを調整することにも注意を促す。また助手は絶えず執刀医を補助し、良好な協力関係を築いて手術を成功に導かなくてはならないと話す。
 
慈済花蓮病院産婦人科医の李佩蓁は、内診から正確な機器の使用による試験片採取、検査過程でいかに患者の負担を軽減させるかについてまで、子宮頸がんスクリーニングと産婦人科内診を指導する。また、婦人科でよく見られる卵巣腫瘍などについて、彼女は臨床解剖の位置を教授し、学生の実習を指導する
「病院で患者さんの検査を行う場合、すべての検査について、必ずまず患者さんに知らせなくてはいけません。そうでないと患者さんは不安を感じます」と彼女は言う。
 
泰然自若とした無言の良師と熱心かつ辛抱強い指導医師の導きを得て、学生は熱心に見学し、自らの手で試してみることで、技術を獲得していく。これは台湾のその他の医大では見られない手術実習の光景である。
 
●肉体は死後腐敗するが、無言の良師は無用を大用に変え、良医を養成し、心願を成就する。
 

遺体はプライスレス

 
「人材育成にはお金がかかります。もし医師を海外の訓練に送るなら、高額の費用がかかりますよ」と、内分泌外科医学会理事長の呉鴻昇は言う。
 
慈済模擬医学センターでは毎年四回国内外の医学会へセンターの使用を開放している。自己の経済学理論に照らし、「私なら、絶対有料にしますね」と林欣栄は言う。利用者負担はどう考えても正しいはずなのだが、「しかし法師の理念は普通とは違うんですよ」と話す。
 
外科医学会が花蓮の慈済で年次大会に参加し、いくら支払った、と言うのは、学会活動期間に支払った宿泊費、食費、講師費用を指す。「模擬医学センターではいかなる費用も徴収せず、あらゆる一般医療機器を提供します。課程に参加する医師は特殊な医療機器のみ持参すればいいのです」。曽国藩は「無言の良師はプライスレスなんですよ」と強調する。
 
献体者の大部分は證厳法師の在家や出家の弟子である。彼らの見返りを求めぬ奉仕は、使用者と対価関係を結ぶことはできない。大愛の呼応で美しい善の循環を形成したい、曽国藩は慈済の創始者がこう考えているのだと理解している。
 
 
献体解剖教育
 
防腐処理された遺体を使用。教育の目的は人体全部の組織構造を観察、認識することで、医学部3年生の必修課程で、1学期間使用する。
 
遺体模擬手術教育
 
模擬外科手術に使う遺体は、急速冷凍後自然解凍処理し、触感は生きた人間の手術とほぼ変わらない。課程で使用する期間は4日間。
NO.263