慈濟傳播人文志業基金會
高齢者の転ばない暮らしのために
安全な住まいへの改善 
 
バリアフリー化していない住まいは、一人暮らしの高齢者の自立した生活や社会活動への参加、生活の質に影響を及ぼす。ちょっとした住環境の改修は予防という名の慈善であり、転倒などで自立した生活に支障をきたすことに起因する福祉資源の浪費を減らすことにも繋がる。
 

ドミノ倒しのように転倒

 
転倒事故などよくあることだと思われるかもしれないが、高齢者にとっては時として命に関わるほどの危険を伴っている。政府の衛生福利部によると、二○一五年の統計では六十五歳以上の事故による怪我と死亡原因の第二位が転倒であった。平均して五人中一人が転倒を経験しているというのだ。そして転倒したことのある人の十人中三人が怪我を負い、そのうち一人は入院するほどだった。
 
台湾では多くの公共の場に手すりが取り付けられ、スロープを設置する等バリアフリー化が進んでいる。また電車やメトロでは体に機能障害のあるお年寄りに介助の人員が対応している。しかし、住み慣れた自宅では気が付かないのか、年齢を重ねるにつれて見過ごされることが多く、事故が起こりやすくなっているようだ。
 
転倒によるけがで一番の重傷が大腿骨骨折である。大腿骨骨折の場合、起きあがることができず、寝たきりになり、やがて筋肉も退化し、肺炎や尿道感染症を引き起こす率も高くなる。
 
●手すりや滑り止めのない廊下があるのは高齢者に優しい家とはいえない。特に夜間は危険だ。
 
その治療と薬品、福祉用具、介助や施設等それに関わる諸々の費用は相当な額になる上、長期にわたって負担しなければならない。また、転倒を経験したことのある高齢者はそれがトラウマとなって外に出たがらなくなったり、人との交わりが減少して、偏屈になったり鬱に陥りやすい。「転ばない暮らし」を考えることは一人暮らしの高齢者にとってはより重要な意味を持つといえる。
 
慈済花蓮本会は先ず、台湾東部でコミュニティーづくりを進め、田舎の高齢者が一人暮らしでも安全に生活できるよう住まいの改修を推進している。続いて慈済北部の社会福祉チームは、家庭訪問を通して、益々多くの高齢者が転倒による怪我をしていることが判明したため、北区独居高齢者ケアチームと話し合った結果、状況を重視し、慈済病院の医師の意見を参考にして「家での安全三宝」が提案された。フットライトと滑り止め、手すりを設置することで歩行を補助しバリアフリー化をはかるという内容だ。
 
●ボランティアはお爺さんのために浴室に手すりを付け、用を足した後、立ち上がりやすいようにした。次に訪れた時、小用を足す時も手すりで支える必要があると彼は訴えた。元来の手すりの高さが低かったことに気付き、話し合って調節した。
●家庭訪問した時、故障した電球を取り替えた。お年寄りは節電したいために、暗くなっても電気を点けないことが多く、事故の原因になりやすい。
 
この提案は二○一三年三月から実行されている。訪問ケアボランティアは家庭訪問を行う際に居住環境と健康状態をよく観察し、高齢者が改善に同意してから施工するが、その費用は慈済が全額負担している。
 
計画は善意によるものであっても、実行がいつもスムーズにいくとは限らなかった。自分はまだ大丈夫だと思っている高齢者の場合、今の暮らしを変えたがらないのである。また最も困難なのは、安全設備を取り付けられないほど老朽化した家に住んでいて、工事が全くできない場合だった。
 
もう一つの状況は、賃貸住宅の場合、家主が改修に同意するとは限らないからである。大同区のボランティア、呉美蓮さんは自分のケアケースを語った。賃貸アパートの四階に住む高齢の張さんは、呉さんが初めて訪れた時は年齢が六十歳過ぎでとても健康だった。それが年とともに足が不自由になり、節約するために家の照明を点けない習慣もあって何度も顔に痣を作るほど転んだ。呉さんは手すりとフットライトを付けることを提案したが、家主に遠慮して首を縦に振ってくれないのだ。
 
張さんは今年七十歳を超えたが、施設にも移りたがらない。近くに住む呉さんは通りかかると必ず四階まで上がって様子を伺っている。
 

●弱者である高齢者は狭い場所に住んでいて動ける範囲も狭く、片付ける体力も無いため、食器に埃がたまっていたり、薬の袋が使わなくなった物と一緒に積まれたままになっていたりする。
 

賃貸を続ける高齢者

 
高齢者は賃貸市場においても弱者であり、崔ママ基金会(不動産賃貸サービスとそれに関する政策提唱を理念に活動している団体)の調査報告によれば、九割以上の家主が一人暮らしの高齢者など社会的弱者への賃貸には消極的なのだという。
 
このように非協力的な賃貸市場の中で、高齢者の経済状態が良くない場合は最も条件の悪い物件や危険度の高い住宅を選択せざるを得ない。台北市大同区には昔からの住宅街が多く、古い住宅は家賃が安く、人情も残っているので、かなりの数の独居高齢者が集まっている。
 
ボランティアによる独居高齢者の住環境の安全点検
 
築年数は長いが修繕が行われていない建物屋根や壁の雨漏り
室内の明るさが十分かどうか
移動する空間の整理整頓
浴室の排水不良による滑りやすさ
つまづきやすい部屋の敷居
 
二○一六年にニュースとなった「カタツムリ老人」というのは、この大同区景星里辺りの話である。ベニヤ板で仕切られた二階半建ての古い住宅に二十数人の独居高齢者が暮らしていたのだ。里長の張さんによると、入居者は皆、公立の老人ホームに入る資格がなく、また私立の施設に入る経済力もないため、「カタツムリの殻」に喩えられる家賃の安い狭小住宅に暮らすしかないのだそうだ。
 
ボランティアの陳順池さんは十数年来、ここで高齢者のために住宅の修繕を行って来た。陳さんによると、以前は簡単なことでよかってそうだ。ドアや窓、ベッド、屋根など必要に応じて修理したり掃除や片付けを手伝うことで彼らの暮らしを大体整えてあげられたのだが、近年は住まい全体のリフォームや安全性が重視されるようになってきた。何を修繕するにしても「住む人のために」と考え、何が必要なのかを観察することが重要だと語ってくれた。
 
慈済による独居老人の住宅環境改善支援
 
身長に合わせた手すりの取り付け
滑り止めの設置、敷居の平面化
照明器具の増設と
ライト付き呼び鈴の取り付け
電気湯沸かし器の設置、
歩行補助器具の提供
慈済による低所得世帯補助
2017年台湾全土の統計
住居の修繕:237軒
住居の安全のため
の改修:251軒
 
「カタツムリの殻」にも似たこの劣悪な住環境は慈済の援助により改善が見られるようになった。長期ケアを通じてボランティアと高齢者との交流が深まるにつれ、十世帯だったケア対象が今では二十数人の入居者全員に広げられることとなった。
 
大同区のボランティアである陳麗鈴さんと施夏蘭さんは、いつも近くでお茶会を開いては高齢者と雑談しているが、時には「移動食堂」で食事会を行うこともある。
 
自分が年をとるに連れて、住まいには不便や危険が生じるということに、事故が起こってからでないと気が付かないようでは遅すぎる。長期ケアの中でいろいろなケースを学び、高齢者に何が必要かを観察しながら、慈済ボランティアは、高齢者の住まいのリスクを最大限解決し、毎日安全で楽しく暮らしていくことを願っている。
 
●台北市大同区伊寧町の狭小住宅で、ボランティアは毎月、お年寄りたちが互いに知り合うようにと、お茶会を開いている。
(慈済月刊六二四期より)
NO.265