慈濟傳播人文志業基金會
心の防疫
「外部からのウイルスは生命体に寄生すると増殖します。心の煩悩は愚念に取り憑かれて生じます。ウイルスが病を引き起こすのを避けるには、防疫に協力してその蔓延を途絶しなければなりません。人の煩悩をなくすには、愚念を無くして清浄な心に戻さなければなりません」。十七年前サーズ(SARS)の感染が世界を震撼させた。台湾の民衆も生命を脅かされる恐怖に陥っていた中で、證厳法師はこのように呼びかけた。
 
二〇一九年の年末、WHOは新型コロナウイルスによる感染症(COVIDー19)を国際公共衛生緊急事件に加えた。たとえ医療科学技術がどんなに進歩し、人々の公共衛生に対する知識が増えても、頻繁な移動が世界規模となり、抗生物質の濫用が増して人から人への感染に対する警戒が疎かになってくると、その全てが感染の拡大を促すようになった。
 
今回の感染が最初に発生した中国では、既に八十以上の都市が封鎖された。工場は操業を停止し再開の見通しは立たず、世界の製造業の供給網は寸断され、経済や観光産業は大きな打撃を被っている。前世紀では天然痘など古来からの伝染病の根絶に大きな成果を上げたが、今世紀はサーズを皮切りに人類の新型ウイルスへの対抗が始まった。
 
発生源が不明で治療薬がない今この時、試練は医療科学技術の分野に留まらず、人と人の間でも信頼関係が試されていると言えるだろう。幾つかの国では中華系やアジア系の人が罵られたり差別されたりするケースが出ている。
 
サーズが流行した時に第一線で防疫に参与していた専門家の話によると、当時は民衆がパニック状態になり社会が混乱したことが感染に拍車をかけたのだそうだ。今、台湾の疫病能力は大きく躍進したが、民衆は今だに争って医療マスクを買い求め、本当に必要としている人たちに行き渡っていない。
 
台湾では政府が直ちに実名登録制を実施し、マスクの需給関係を調整し始めた。ネット上でも「マスクを譲る」運動を発起した人は少なくなく、また布マスクを手作りする人まで現れ、不織布マスクを医療人員や必要とする人たちに使ってもらおうとしている。
 
前期の特別報道に載っているが、最初に伝染病が発生した武漢では、社会に奉仕すべきだと分かっていても、何もできないという焦燥感が慈済ボランティアに生じた。そして市の封鎖と隔離の下にネットによる読書会を開いて互いに励まし合い、仏法を聴いて心を落ち着かせた結果、人間性の美と善をも実証することができた。
 
例えば、隣近所で郷里に帰れない人たちの食糧を心配し合い、互いに関心を寄せてマスク二袋を届けた人もいれば、武漢で眼鏡チェーンストアを経営していた実業家ボランティアは、市が封鎖する前に故郷に戻り、自腹で防護ゴーグルなどの医療用物資を買い集め、第一線にいる医療スタッフに届けたのだそうだ。
 
ノーベル文学賞を獲得したフランスの作家カミユは長編小説『ペスト』の中で、「人類はもとより感染を恐れ、誰一人として免疫になる人はいない。ただ正直だけが人の心の疫病に対抗できる」と書いている。恐怖がもたらす根深い先入観と対立を防ぎ、絶望に対抗する時、「愛」を広めてこそ、人としての真の存在意義を現すことができる。
(慈済月刊六四〇期より)
NO.281