慈濟傳播人文志業基金會
パイワン族文化の伝承者 (下)
チャマク・ヴァラウル氏
 
 
二○一四年、東元賞(東元科技文教基金会による表彰)受賞式典の席上において、泰武小学校の古謡伝唱隊はパイワン族の伝統歌謡を歌った。
 
チャマク(中)は学校の教師であるだけでなく、さらに伝統文化を守護する人物である。
 
彼は歌を教える中で、子供たちに部落の歴史と文化を理解してもらうと同時に、祖先の智慧を伝えている。
 

文化の中から

生命の智慧を集める

 
民族音楽が専門の国立台北芸術大学音楽系の呉栄順教授は、「泰武小学校古謡伝承隊は台湾唯一の原住民合唱団であり、その発表は大変輝いていた。さらに素晴らしいことに、卒業生を送って新入生を迎えても団体はみな高い水準を維持している」と語った。
 
「隊員たちの伝承隊に対する向上心は強く、高学年の隊員は卒業後村の外や県外へ進学しますが、時間があると練習しに帰ってきます」。チャマクはさらに、「私たちには今、もう一組の『泰武古謡伝承隊』があります。隊員は中学生、高校生から大学生までおり、すでに吟唱とパイワン古謡をどう歌うかを熟知したメンバーが青春期を経て成長した後、さらに内心の感情や経験を歌に込めて、豊富な変化に富んだ曲風を創造しています」と言った。
 
しかし一方で「どんな年頃にどんな唄を歌うべきか」が大事だと強調しているという。古謡は教えるのに時間がかかるのだが、青春たけなわの少年に壮年の歌を歌うよう求めることはない。彼は子供たちが古謡の意義を自覚してこそ、歌詞の背後に含まれている精神を理解することができると考えている。伝統文化以外にさらに重要なことは、いかにそこから文化の智慧を学び取るかであり、学生たちが現在と未来に向き合えるようになることにあると強調した。
 
●2016年9月、伝唱隊は韓国の要請を受けて全州国際清唱芸術節に参加。開幕式では韓国、スペイン、米国、ポーランドと共演した。
 
「『Pulima』(実作能力)、『Puqulu』(思考力)、『Puvalung』(他人の関心)は私が子供たちに教えているすべての物を、彼らが持っていくことを願い、さらに生活の中に応用するように願っています」。古謡以外に、彼は生徒にパイワン族伝統の彫刻や刺繍を教え、さらにその作品を販売して日本の富士山登山の経費を捻出した。
 
毎年の北大武山登山と同じように、富士山登山の過程では、いかに同伴の者を助けるかが大切だった。しかし違うのは、外国へ行く準備を生徒にまかせたことだ。航空券の予約から、宿泊、登山の路線計画までを生徒達でさせ、彼は傍で意見を言うだけだった。登頂に成功した後、伝承隊員はいつもの通り古謡を吟唱して、日本一の高峰で響かせた。「登山は大自然を征服するのではなく、重要なことはそれを以て新たに自己認識することです」と言った。
 

集落に帰って

文化の伝承に尽くす

 
現在、泰武小学校の古謡伝承隊は十分に名を挙げた。次のステップは?と問うと、「集落に帰ること」という彼の答えに私は霧に包まれてしまった。すると彼は、現在子供らは集落に住んでいるが、彼らにはやはり同じ民族の中でもいろいろと壁を感じることがあるからだ、と説明した。
 
それから集落が以前一度、文化の伝承が途絶えそうになる危機に瀕した時期があったことを話してくれた。当時の村人は自分の長所が見えず、外来の物質や文化の方がよく見えたため、パイワン族の文化の方が徐々に失われ、集落の年長者と青少年との間に一層文化的な隔たりができてしまったのだ、と話した。
 
彼は、「文化の伝承とは上から下にという一方通行だけではない。現在ますます増えている伝承隊員は、家の年長者がいかに古謡を吟唱していたかを学んで、文化を下から上へ伝えていかねばなりません」と言った。彼は伝承隊員の使命とは「文化の復興」を用いてこの道にある塀を打ち破り、集落内の年長者、成人、青年や子供が共同で文化意識を高めコミュニケーションをはかっていかなければならないと言っている。
 
 
●チャマクは毎年生徒とパイワン族の聖山である大武山に登ることにしている。生徒らに自分の源に思いを馳せてほしいからだ。登山前、生徒らは小さな火を飛び越え、神に息災を祈るという。
 
「数年前、私は伝承隊員を連れて集落の重要な結婚式に参加しました。それは集落の頭目の娘の婚礼で非常に盛大でした。頭目は伝統を重視する人で、男側の家人が先に女方の家人に対して古謡を吟唱すればこの婚礼を許す、という形にしたいと要求したのです」。そして不思議なことに「男側には唄える人がいなくて、やりきれない気分に包まれていました。娘が嫁げないことを心配して、婚礼の古謡を教えようとしたのですが、皆がパイワン語を熟知しているとは限らない。たとえ頭目が進んで教えようとしてもうまくいかなかったのです。しかし、私が連れて行った伝承隊の子供達は皆歌えましたよ。当時六年生でしたが」。これらを見てチャマクはたまらなくなり、なおさら自分はパイワン族の伝承文化を保存しなければならないという元来の意図を確信したと言った。
 
パイワン語の中にある「イサンカウカウ」とは「真正の人」を指している。真正の人とは、集落に奉仕し、参与と共有を心がけている人のことである。チャマクはそれがパイワン族文化を継承するべき青年の理想像であるという。人として金を多く儲ける必要はなく、または社会の高い地位について成功をおさめる必要もない。最も重要なことは、自主的に人に関心を寄せ、他人を手伝う精神だと言っている。彼はパイワン族の文化精神は集落古謡の歌詞と旋律に深く含まれて、子供たちが日々反復吟唱すれば、貴重な古老の智慧を悟ることができると信じている。
 
泰武小学校の古謡伝承隊は成立から今日に至るまで十一年あまり、数百人の古謡を吟唱する青年を育ててきた。「誰もが故郷へ戻って手伝う必要があるとは思っていません。ただこの数百人の中で一人でも喜んで帰ってきて、文化の伝承をしてくれる後継ぎになってくれたなら、私の使命は円満に達成できたことになります」と話す。そして談話の最後に、チャマクはうれしそうに、その時になったら自分は幕後に退いて、民族の中で智慧に満ちた年寄りになりたい、そして引き続き集落の青年たちの成長に協力し、パイワン族の伝統文化を護っていきたいと語った。
(経典雑誌二三四期より)
 
●壁の上にある陶器の甕、百歩蛇の図をチャマクはパイワン族文化の守護神であるという。未来においても彼は古謡を教え続け、生徒らが自分たちの歌を歌い、部落の物語を語り継ぐことを願っている。
 
No.262