慈濟傳播人文志業基金會
ステージに立つ前に
自信のなかった子が大声で歌い、
おどおどしていた子が付き添いで舞台に上がる。
ようこそ「マカパハイ子ども団」へ。
さあ、自分の人生のスターになろう!
 
部屋を包むゆったりした音楽が、もうすぐ訪れるクリスマスの気分を盛り上げていた。二○二一年最後のクラスの日、数人の子どもがクリスマスツリーに向かって必死に爪先で立ち、願い事を書いたカードをツリーのてっぺんの「希望の星」に掛けようとしていた。まるで高ければ高いほど願いが叶いやすいかのように。「希望の星」はほどなく願い事がびっしり書かれたカードで埋まってしまった。
 
「百八十センチまで背が伸びますように」、「憧れの舞踊団に合格して舞台に立てますように」と願う子もいれば、「両親が大金持ちになりますように」と願う子もいた。子どもたちの素朴な願いには思わず頬が緩む。しかし、中には緩んだ頬が引き締まるような願いもあった──。
 
「誰かが私を愛してくれますように」、「私たちを愛してくれてありがとう」、「みんなどんどん歌がうまくなりますように」。ほんの短い願いや感謝の言葉には、子どもたちの純粋な渇望が表れていた。そこからは「マカパハイ子ども団」が子どもたちに与えてくれた温もりだけでなく、子どもたちの大事な居場所となっていることが伝わってくる。
 

学業支援と同じくらい重要なこと

「私たちは生命力や希望を込めて楽しく歌っています」。
 
この日は陳嬥笙(チェン・ティアオション)先生の指揮で、数十人の団員が輪になって団の歌を歌った。最後のフレーズ「ヤー!justマカパハイ」で一斉におどけた顔をして独創的なポーズを取った。
 
「マカパハイ」は「美しい」という意味のアミ族の言葉で、最高とか最も美しいことの総称である。二○一九年三月に団が結成された後、最初の集いの際、団を指導する陳先生がメンバーから団名を募り、熱い議論と投票を経て、団名は「justマカパハイ合唱団」に決まった。
 
慈済基金会慈善志業発展処東部社会福祉室のソーシャルワーカーである蔡惟欣(ツァイ・ウェイシン)さんはこう説明した。「マカパハイ」は花蓮本部子どもエンパワーメントプロジェクトの一つで、慈済が長期的に支援をしている家庭の子どもを対象に、隔週の土曜日午後に集まって活動しているという。二○二○年には、活動範囲をさらに拡大し、多様な学習方法を開発した。それに伴い、団員が自分の興味を見つけ、潜在能力を伸ばせるようにと願って、団名も「マカパハイ子ども団」と変えた。
 
「マカパハイ子ども団」の団員が打楽器の先生について、机をバチで叩いてリズムの練習をしていた。 初めて打楽器のレッスンを受けるメンバー。ソーシャルワーカーのサポートを受けながら練習するうちに、だんだんとリズムが取れるようになった。
 
子ども団を結成したのは、ソーシャルワーカーたちが家庭訪問の際にあることに気付いたからだ。社会学的な見方をすると、社会的弱者の位置付けが、「階層ごと複製」されるように次世代に貧困が受け継がれ、抜け出すことのできない檻となっているという。従って、教育はそのような貧困の連鎖から子どもたちが抜け出すための踏み台になる。だが、実際にこれらの家庭を支援するソーシャルワーカーたちが気付いたのは、子どもの食事や学費の心配が解消され、親に意欲があって、子どもの勉強を見てやろうと思った時、親の教育程度が低ければ難しいということだった。
 
確かに慈善団体が提供する奨学金は貧しい家庭の子どもを励まし、学業に専念させている。しかし、学校の成績を支給基準とする制度のままでは、多くの子どもを励ますことにはならない。そのため、慈済では学業成績を含む五項目を支給基準とした「新芽奨学金」を創設し、多様な側面から成長を支援することにした。ただ、奨学金の授与式は年一回きりなため、普段は子どもとコミュニケーションを取る機会があまりない。そこで、花蓮本部社会福祉チームは「子どもエンパワーメント計画」を発案した。
 
17歳の玟玟さんは、弟に次いで子ども団に入った。他の団員よりも年上だが、歌やダンスに真剣に取り組む姿は、みんなのよい模範となっている。
エンパワーメントとは、自分の長所を伸ばし、社会的競争力を高めることによって将来の自立を促すもので、近年、社会においてしばしば言及される概念である。慈善志業発展処社福室でソーシャルワーカーを務める呉承澔(ウー・チョンハオ)さんは、「どの子にも必ず才能があります。『子どもエンパワーメント計画』はさまざまな機会を提供し、すべての子どもが安心して学校に行けるだけでなく、各自の才能を伸ばし、未来を生き抜く力を育むことができるよう支援しています」と話す。
 
しかし、どうすれば家庭環境も年齢も性格も異なる子どもたちが一緒に学べるだろうか。あれこれ考えた結果、「歌うことには何よりも心をつなぐ力がある」ということで意見が一致した。最初の団名が「justマカパハイ合唱団」になったのもそのためだと蔡さんが補足した。
 
しかし、大変さは予想以上だった。最初のレッスンの日には想定外の状況が次々生じた。メンバーの年齢差が大きく、募集時に特に選考も行わなかったのでレベルにも差があり、練習は思ったようには進まなかった。楽譜の一段目も終わらぬうちに、もう我慢できない子が出てきた。勝手に席を離れ、寝転んだり、走り回ったりした。まるで学級崩壊である。
 
「学校で授業中に勝手に席を離れたら、厳しく叱られたり罰を受けたりするでしょうが、私たちは教える方の都合を押し付けて子どもたちがのびのびと成長する機会を制限したくないのです」。
 
「マカパハイ」の理念は、子どもの本来の個性を大事にしながら、なんとか方法を見つけて、マナーや自律の重要性を理解してもらうということにあるのだと蔡さんは力を込めた。
 
㊟ ナビゲータープロジェクト
新芽奨学金制度の延長線上にあって、2020年3月から始まったプロジェクト。貧困家庭の大学生の多くが、外でアルバイトをした際、差別的な職場環境に遭遇したため、慈済が長期休暇の間、東部地区支援世帯の大学生をアルバイトとして受け入れた。ナビゲーターたちは夏休みの合宿で活動や講座の企画をしたりするほか、慈済のケア世帯の子どもの学習を1対1でサポートしている。また、ナビゲーターの専門や興味関心に応じて、プロジェクトの中で記録や撮影、動画の編集などを行っている。

「自分はできる」と知ってほしい

陳先生は教師歴四十年以上、教育部が全国の優れた教師に送る師鐸賞を受賞したこともあるベテラン教師だ。彼女は、何回かレッスンをするうち、子どもたちがリズム感や身体表現のセンスは優れているにもかかわらず、学習の機会や音楽環境に恵まれず、適切な指導を受けられなかったことに気付いた。また、自分の境遇を気にして多くの団員は自信が持てず、なかなか口を開いて歌おうとはしなかった。暮らしの中で困難に直面した時も、自分には解決する能力がないと思い、尻込みしてしまっていた。
 
「私たちにできるのは、子どもたちに自分の能力を知ってもらうことなのです」。
 
歌や踊りが大好きな小廷は、結成時からの団員だ。歌や踊りの能力はすばらしいのに、自分に全く自信がなかった。陳先生は、小廷には潜在能力があると見て、ソプラノを担当させることにした。ステージに立つ機会を与え、挑戦する過程で自信をつけさせていった。
 
去年のクリスマス前の集いで陳嬥笙先生(中央)の指導を受けて輪になって歌い踊る団員たち。体を動かしたりレクリエーションをしたりしながら合唱の発声練習をしていた。
 
子ども団は二○一九年に花蓮の新芽奨学金授与式で初めてステージに立ち、客席から盛大な拍手を受けた。勇気をもらった小廷は、その後、子ども団のメンバーと一緒に遠雄海洋公園での「フラッシュモブ」で歌うことに挑戦した。小廷は、「綱渡りみたいですごく勇気がいるけど、子ども団の仲間がいるから怖くない」と言った。
 
団員の欣欣(シンシン)と媃媃(ロウロウ)の姉妹は、休日になると七星潭で母親が出している屋台の手伝いをする。アミ族の血を半分引いた彼女たちがたまに民族衣装を着て呼び込みをすると、多くの観光客が足を止めて一緒に写真を撮って行く。
 
姉妹はとても活発で、演技や演奏も大好きだ。だが、母親の孫さんはこらえきれず暴露した。欣欣は歌うのは好きだが、しょっちゅうテンポが走ったり遅れたり、キーが上がったり下がったりするので、リズム感がない父親でさえ、音痴だとからかうことがあるそうだ。そのため、欣欣は家族以外の前では踊ろうとせず、気軽に歌も歌おうとしなくなった。しかし、子ども団に入ってからは、歌が上手になっただけでなく、より勇敢になったという。
 
孫さんは、新芽奨学金授与式で初めて子ども団が演奏した時のことを話してくれた。ステージでちょうど欣欣の横にマイクがあったという。
 
「決められた位置に立ったら、あの子の目の前にマイクがあったのです。それであの子はとても緊張してしまいました」。しかし、欣欣は勇気を持って最後まで歌いきった。
 
「歌い終わった瞬間のほっとした表情を見て、そのステージが彼女にとって大きな一歩になったことが分かりました」。
 
姉妹は集いが終わるといつも楽しそうにその日のことを話してくれる。
 
「あのお兄さんやお姉さんがどうこうとか、先生がこう言ったとか、仲間が面白いことをしたとか……。普段学校に行く時は、何度せかしても遅刻寸前になるまで出て行かないのですが、団の集いの日には何も言わなくても、前の晩から持ち物を準備したり、着ていく服を考えたりしています。ステージに立つ前は、前もって自主的に家で練習もします」と孫さんは笑った。
 
子ども団は今では姉妹に言うことを聞かせるための秘密兵器となっている。欣欣と媃媃が宿題をしなかったり、物を散らかしたり、自分の食器を洗わなかったり、何度言っても言うことを聞かない時は、「ちゃんとやらないと集いに行かせないからね」と警告すると、子どもたちはすぐに聞き分けがよくなって、生活が規律正しくなるのだという。
 
2021年子ども団の年末の集いでは、団員たちは新年の願い事や感謝の言葉をカードに書いて、クリスマスツリーのてっぺんの「希望の星」に掛けた。
 
心理学の研究結果によると、IQよりも「自律性」の方が、その人の将来の学業成績、仕事の業績や健康状態を予測できるという。自律性というのは、決められたルールを守り、規定通りに物事を行うということだけではなく、一時的な満足を先延ばしにして、好ましい選択をすることである。たとえば、アメリカスタンフォード大学が一九六○年に行った「マシュマロ実験」では、「セルフコントロール」ができ、「目の前の享楽を先延ばし」して、その先のごほうびのために我慢できる人ほど、人生で直面する様々な困難に立ち向かうことができることが証明されている。
 
自律性は一朝一夕にして生まれるものではない。子ども団では、社会のサポートの下で子どもたちによい習慣を身につけてもらいたいと考えている。
 
2020年のリラ傑人杯音楽コンクール花蓮地区大会で、子ども団はすばらしい歌声を披露した。団体の部で優勝しただけでなく、ソロの部でも6つのトロフィーを獲得した。団員たちはナビゲーターの先輩に付き添われ、壇上でうれしそうに賞を受け取った。(写真提供・花蓮本部)
 
「歌が好きでなくてもかまいません。参加したい気持ちがあるなら、どうぞここに来て友達を作ってほしいと思います」。
 
合唱は子どもたちが家の外に足を踏み出すきっかけになっていると蔡さんは言う。
 
「みんなと一緒に活動することで、プラスのつながりができ、自信と自律性が育つのです。団員一人ひとりがこの過程を通じて自分に挑戦し、よりよい自分を生きてほしいと願っています」。
 
団員が兄弟を連れてくることもあるという。
 
「兄弟姉妹全員で来た例もありますよ。そういう時の雰囲気はすばらしいものです」。
 
去年九月二十八日、蔡さんのもとに団員から「教師の日おめでとう!先生、いつもありがとう!」というメッセージが届いた。そのメッセージを見て、蔡さんの目に涙が溢れた。
 
「私はソーシャルワーカーですし、子どもたちに先生と呼んでもらえるとは思ってもみませんでした」と彼女は言った。この短い言葉は社会福祉チームにとって大きな励みになった。彼らに「子どものエンパワーメント」の地道な取り組みを続けていく自信とエネルギーを与えたのである。
 (慈済月刊六六三期より)
NO.304