慈濟傳播人文志業基金會
ここまで歩んできました

 

台北・陳阿池
 
 
陳阿池さん、通称池さんは今年で七十八歳を迎えます。宜蘭に生まれ、結婚後は家族に安定した生活をさせようと、単身台北に出て働いていました。線路の補修工事や運送業、タクシーの運転手などの仕事を転々とした後、バスの運転手の免許を取得してからやっと安定した収入が得られるようになりました。
 
当時の池さんはお金を稼ぎたいという一心で、毎日平均十二時間働いていました。四十五歳になった時、偶然一人の慈済ボランティアと知り合ったのが縁の始まりで、證厳法師の開示を録音したテープを聞く機会に恵まれたのです。上人の慈悲の心に感動した池さんは、運転しながらずっとテープを聞き続け、命あることの価値と意味について深く考え、善行を行うことを今ためらってはいけないと悟りました。
以来二十五年間ずっと池さんは環境保全ボランティアの仕事に取り組み、それだけでなく、上人の教えを頭と心に刻み込もうと、義理という人として正しく歩むべき道について考え、それを自分の経験として生かし、誰かと分かち合うことに喜びを覚えました。病魔の苦しみに遇った時でも教えを学びたいと強く願う気持ちは途絶えませんでした。
 
池さんは笑いながら話します。「自分は物覚えの悪い人間なんですよ。だから人より多く仕事をして、もっと話しを聞いて、もっと勉強をしなくてはいけないんです」
 

 

ただその歩みについていきたいと願って
 
上人のお諭しの中の「拍手を送るその両手で環境保全をしましょう」という一言を聞いたときから、池さんは仕事の合間を縫って資源回収車を運転し、各地を回りました。しばらくはそうしていましたが、まだ自分の働きは足りない、上人の歩みについていっていないのではないか、と感じたので、仕事の時間を調整し、半日バスの運転手、あと半日は資源回収をすることにしたのです。収入は半減しましたが、池さんはそれで大きな喜びと満足を得ました。本当の喜びはお金で得られるのではなく、尽くすことで得られると悟ったからなのでした。一九九七年六十歳で退職を迎えた後、ようやく念願だった専属の環境保全ボランティアとなりました。
池さんは毎日朝晩のお勤めの時に證厳法師の「三求」を暗唱します。「三求」とは、健康を追い求めず精神の叡智を追い求める、思い通りを望まず勇気の力で立ち向かう、責任の軽減を求めず能力の向上を望むというものです。上人の教えを学ぶことを怠ってはいけないと自分を戒めるためです。事実、池さんはこれまで何度も病気の苦しみと戦ってきました。生死をさまようこともありましたし、数年前には癌を煩い胃を切除しました。そのため八十五キロあった頑丈な体は六十数キロにまで痩せ細ってしまいました。しかし池さんは歩みを停めなかっただけでなく、さらに強い意志の力で以てボランティアの仕事を続けたのです。常に微笑みを携えてこう語りました。「病気でない限り毎日ボランティアに出かけます。親からもらったこの体は一時的な物にすぎないのですから、何かできるのも今のうちなんですよ」

 

真の幸せと喜び
 
内湖の環境保全センターでは、人々が口々に池さんに学びたいと賛辞を送ります。仕事熱心なだけでなく、誰に対しても誠実で裏表がなく、人当たりもよく、思いやりの深い人だからです。ある日私たちは池さんと一緒に宜蘭の実家を訪ねました。道すがら近くに住む四番目の兄の所に立寄り、一緒にお昼をいただきました。テーブルにつくと池さんはお兄さんを気遣って話しかけます。するとお兄さんは感極まって感嘆の声をあげたのです。「池は本当によくしてくれるんです。私が困っている時、池はだまって手を差し伸べてくれました。こんないい弟はほかにいませんよ」。兄弟の深い絆を目の当たりにし、私は池さんが兄弟について語った詩の一節を思い出していました。「兄弟元々生まれは同郷、いさかい減らして争わず、お互い会う度年をとり、一緒に生きていく」
妻の林鑾蝦さんが言うには、池さんは実はとても節約家で自分のためにお金を使えない人なのだそうです。この数十年間毎日同じボランティアの制服を着て出かけ、ボランティアに明け暮れ、どこかへ旅行に行くことなんてあり得ませんでした。それだけでなく、三食とも自分で作るそうです。食事はとても簡単なもので、ご飯一膳に野菜のスープ、これだけで満たされるのだそうです。
池さんは生活に困っているわけではなく、ただ清らかな心の持ち主なのです。貧しくても喜びのある生活をし、欲望を最小限にして、人のため善行に尽くしているのです。清貧な暮らしによって毎日が充実しているのがよくわかりました。これがすなわち證厳法師のお諭しにあるこの言葉の意味することだと言えます。「心に念じることが素朴であれば、自然と人は争わなくなります。争いのない世の中になります。そうなってこそ貴方も安らかに自在でいられるのです」
 

 

NO.227