グリーンレストランは環境に優しい消費行動に火をつけた。
産地と消費者の距離を縮め、環境に優しいネットワークを築き上げた。
食材のシンプルな本来の味を引き出すためには、調理方法もより簡単で緻密でなければならない。
料理の質も天気に左右されて変わりやすく、無農薬食材はコストが高いため、
シェフの腕前と理念が試される。
アレルギー体質の子供を持つ母親でもある大学教授の許儷絹はほとんど毎日、家で料理する。彼女の子供は化学添加物や質悪い油の混じったものを食べるとすぐに下痢をする。近くの路地裏で流行っているラーメン屋から有名なレストランチェーンまで、たくさんの店が彼女のブラックリストに載っている。
料理が好きな彼女でも、数学の研究で時間がなかったり、気分転換のために「安心して食事できる店を探す」のはとても大切なことである。結局、子供の胃腸に適しているレストランはわずか数軒しかなかった。しかし、それらは偶然にも一つの共通点を持っていた。有機栽培や農業適正規準に沿った食材を使用し、過度に調理せず、人工添加物を使用していないという点である。これら「グリーンレストラン」の存在は彼女を安心させた。
作家の番紅花はある時、重い流感にかかった。料理をする体力もなく、子供たちに数日間続けて油と塩分の多い外食をしてもらった。彼女は「ママにも料理が作れなかったり、作りたくない時や時間がない時もある」と溜め息をもらした。会社を辞めて、主婦と作家を兼業しているこの女性は、料理できない時、外食も安心できないという矛盾した状況をよく理解している。
「本来の味厨房」は番紅花を商品開発シェフとして迎え入れ、安心してテイクアウトできる家庭用惣菜の開発を依頼した時、彼女は喜んでそれを引き受けた。彼女は栄養を損なわず、簡単な調理法を用いることを前提にメニューを作った。小家族が二、三種類のおかずを選んで持ち帰り、家で野菜を炒めるだけで晩ご飯が楽しめるのである。彼女はこの機会に、親が料理するプレッシャーから解放され、子供の勉強に付き添う時間が増えることを期待した。
グリーンレストランで出す弁当と一般の弁当の最も大きな違いは、箱の上に小さな紙が貼ってあり、食材の産地を明記していることである。いつも自分で農園まで足を運ぶ責任者の鍾坤志は、「できるだけ環境に優しい農作物を使うことで、より多くの農家がこの方向に進んでくれることを望んでいるのです。お客さんが私たちの弁当を食べることが間接的に農地を保護することになるのです」と話す。
グリーンレストランが
大きな流れとなった
近年食の安全に関する問題が起きてから、グリーンレストランが台湾の至る所にできた。より多くのシェフやレストラン経営者が理念を実践する場所として、レストランで安心して食べられると同時に、もっと多くの消費者に社会と環境に関心を持ってもらい、食で世界を変えよう、と呼びかけている。
グリーンレストランの発想は一九九〇年に起こり、アメリカで「グリーンレストラン協会」(GRA)が設立された。業者が永続的に環境保全の方向に向かうように指導し、認証制度を推し進めてきた。創設者であるマイケル・オシュマンは二〇一一年に台湾で講演した時、次のように語った。もし、台湾の業者が食材の選別と調理方法において環境に優しく、エコと資源のリサイクルなどの原則の下に、できる限り新鮮な有機食材を使用すれば、アジア地域でリーダーになることができるだろうと。
日本も地元食材認証は早くから制度化されており、食糧自給率の向上と鮮度の高い食材を届けることを目標に、地元食材を支持する業者に認証を与えている 。その後、民間のレストランも自主的に「グリーンランタン」運動を起こし、店の前にグリーンのランタンを提げると同時に、星の数で地元食材の使用比率を表すようにしている。
台湾はこの方面で遅れをとってきたが、近年の食の安全問題でグリーン飲食への志向が短期間で高まりを見せている。これに参画する店は雨後の筍のように現れ、政府の認証もそれに伴って進められた。例えば、農委会が推進した産地と販売業者による「産地追跡制度を紹介するレストラン」や国産の有機食材を使用する「有機思考、美味しいレストラン」や高雄市のような地方自治体の「環境に優しいレストラン」などがある。食卓のグリーン消費に伴って、健康に注意する一方、環境に優しい農業と環境保護を見守っている。
経済部(財務省に相当する)の統計によると、全国飲食業の売り上げはこの十五年間伸びてきており、二〇一五年は四千二百四十一億元(一元は約三円)に達した。しかし、華やかな業態の陰に、膨大な食材の浪費と資源の消耗が隠されている。もし、グリーン飲食が流行れば、環境にとって大きな助けとなるだろう。
環境に優しいレストランは
消費者と農業の双方に有益
台湾ではグリーンレストランの先駆者はチェーン店ではなく、突然街角に現れる小さな店である。
宜蘭大学有機産業発展センターの黄璋如主任は有機思考の認証責任者で、あるホテルと有機農園の間を取り持ったが、「シェフもオーナーも同意したのに、仕入れ係が同意しなかった」経緯がある。ホテルに野菜を届けた農民が仕入れ係に見栄えが悪いと言われ、合作が成立しなかったことがある。
また、有機野菜を使うと謳ったチェーン店が価格が高いために客の入りが少なく、結局閉店してしまったところもある。黄璋如の観察によると、大きいレストランが業態を変えるのは容易ではないが、逆に理念が成熟した小さい店は環境に優しい農業の長所と短所を理解しようと努力し、それを忍耐強く客に伝え、堅実さが累積されて信頼の基礎ができ、固定客ができるようになる。
静かな路地にある「禾豐田食」は二人の若い女性が始めた小さな店である。歳月の流れが感じられる古い建物の中へ入ると、まず蜜の香りがする竜眼花茶が客の心を捕らえ、続いて定食が出される。見たところ簡単な料理だが、豊かな味が隠されている。野菜や果物はよく知った小規模農家から取り寄せ、肉類には産地からの販売ルート証明がつけられている。そして、加工食品である味噌や豆そぼろは有機大豆を使った自家製である。
シェフの蔡侑宸は休みの日には自ら頻繁に産地の農家を訪ねたことで、進むべき道が大きく変わった。「以前学んだ飲食に関する知識が覆されました。改めて土地と食べ物を理解し、食材の本来の味をどう活かすか挑戦しようと思うようになりました」と言う。アレルギー体質の彼女は、舌でわずかな違いも見つけ出すことができ、有機肥料を使い過ぎた野菜もすぐに判別できる。それで、優先的に自然農法を使うようになった。
提携先農家の黄昭智は、このような安定した需給関係は農家にとっても大いに助かると言った。同じ台中に住む彼は毎週自ら収穫した新鮮な野菜や果物を店に届けている。彼が栽培した農作物は肥料も農薬も使わず、見栄えはよくないかもしれないが、味は格別に濃く、歯応えもしっかりしている。デザートシェフの宋菀柔は彼が栽培したモンキーバナナを使って柔らかくてしっとりした香りのある米粉ケーキを作った。桑の実ジャムを泡立てた冷たいジュースはこの店の売れ筋商品である。
シェフの器用な手で食材の特色はめいっぱい発揮され、農民の苦労も客に理解してもらえるようになった。禾豐田食は不定期に農家によるマーケットと食農に関する講座を設けて生産者と消費者の橋渡しをしている。
グリーンレストランの出現は都会だけでなく、地方でも増えている。「好糧食堂」のオーナーの葉品妤は三年前に山と海に隣接した宜蘭県南澳郷に移住して来た。遊び半分で農業をしていた彼女は「南澳には新鮮な食材はあるが、地元の作物を主体に特色を出したレストランが一軒もない」ことに気づいた。彼女はすぐさま、農耕の合間に小さなレストランを始めた。
好糧食堂の食材はほとんどが数キロ以内で取れたもので、彼女自身が栽培した野菜や果物、ハーブも含めて、産地からレストランまで距離が最も短い例と言える。かつて環境保全団体に所属していた彼女は、産地に近いことは有機栽培よりも重要なことだと思っている。「私自身以前、有機野菜を注文して一箱送ってもらったことがあるのですが、十種類の野菜に十個のビニール袋を使っている上、輸送でもCO2が排出されます」と言う。その結果、彼女は近くの住民が栽培した野菜や果物を買う方がよほどいいと思った。例えば、あるおばさんが病気してから自分で栽培したものを食べるようになったが、そういうものは農薬を使用するはずがないのである。
葉品妤は同じ考え方の仲間を集めるために、台湾全土の二十数軒のグリーンレストランを訪ねて回ったことがある。そういう飲食は体に良いだけでなく、土地と人の関係にまつわる面白い話と共に、人の頭脳と心に潤いをもたらしてくれると感じた。
安心して食事できることは基本的人権
グリーンレストラン経営者のこれほどのこだわりを客は分かってくれるだろうか? 厳選された食材による料理はまず濃い味付けに慣れた外食族による試練を受ける。
「食在地台灣素」のオーナー林朗秋は、百以上の農家と加工工場を訪れて提携先を探したことがある。醤油の選択だけでも二十軒以上回って、やっと自分の理想に合った仕入れ先のリストを作り上げた。彼は苦労して選んだ物を過度に調理して本来の味を損なった挙げ句、客に味気ないと言われたくはない。
林朗秋はかつて健康食品会社の幹部だったが、長年の経験に基づいて、食習慣を変えるのが健康維持の第一歩であることに気づいた。彼の素食レストランに入ると、壁に大きな台湾地図が描かれており、様々な食材の産地と提供している農民の写真が貼られてある。そして、テーブルの上に立てられてあるのはメニューではなく、使用している野菜の履歴が分かるQRコードの紹介である。客がスマートフォンホをかざせば、生産段階からの背景が一目で分かるようになっている。
素食レストランは逆に加工食品を一切使わず、小麦粉も怪しいので麺類も出さない。また、野菜は有機栽培や自然栽培のものだけを使い、各方面でこだわった挙げ句、定食の値段は百三十元に抑えている。グリーンレストランでよく聞く問題は食材コストが高いため、販売価格を低く設定できないことである。林朗秋は包み隠さず、安く有機食の店を経営する秘訣を語ってくれた。中間業者を通さず、少数の決まった農家から安定供給を維持し、メニューは固定させないことである。「農場から送られてくるものは何でも受け入れます」。絶対に「有機」を「高嶺の花」の存在にしてはならないと彼は思っている。
厳選された食材にもかかわらず、値段が安いのは高雄の「YaYaグリーン厨房」も同じである。このレストランは真っ先に自然に優しいレストランの認証を受けており、評判は非常に良く、よく流行っている。オーナーの張維真は痩せ型の肉食を好む台南出身の女性である。「食事することは人としての権利です!」と彼女は強い語気で語った。
以前忙しい金融関係の仕事に従事していた彼女は、毎日外食ばかりで、母親の手料理を懐かしく思っていた。店を出してからもメニューは家庭料理風に徹した。しかし、食材を研究していくにつれ、容易でないことが分かった。彼女が使う野菜や果物の九〇%以上は有機自然農法で栽培されたもので、高雄地元の微風市場または信頼できる農場からのものばかりである。油炒めして味を添えるだけのニンニクでさえ産地を厳選している。
張維真は「有機イコール高い」という先入観を崩そうと果敢に挑戦している。コスト管理ができていれば、仕入れる量を細かく計算して無駄を省ける。「要は浪費を減らすことです」と財務管理に長けた彼女が説明した。
太陽光発電で電気代ゼロ
源に遡って減らすことと使わないことがグリーンレストランの原則の一つである。自然に優しいレストランを推進する高雄餐旅大学飲食管理学部の劉秀慧副教授が査定方法を説明してくれた。六つの角度から査定するのだという。省エネ、環境保全、有機で安心できる飲食、環境に配慮した仕入れ、永続的経営、衛生面での安全などである。また、大学ではグリーン料理技術関係の授業も行われ、地元食材、環境に優しい調理法、添加物を使用しない本来の味など従来の飲食と異なる新しい観念を教えている。
書籍と料理を提供している「一冊書店」の経営者である郭美如は次のように言った。グリーンレストランの重点は食材の産地を強調するだけでなく、各方面から環境保全精神も強調すべきである。例えば、ごみの減少やエネルギーの節約もレストランのグリーン度に関係してくる。彼女の店では使い捨てのテイクアウト用弁当箱は一切使わず、代わりに容器を貸し出している。また、トイレでは手拭きペーパーの代わりに清潔なミニタオルを用意している。
エネルギーは節約できるだけでなく、作り出すこともできる。夏の屏東は灼熱の太陽が照りつけるため、レインボーレストランのオーナー、洪輝祥は「自由の屋根」と名付けた太陽光発電から毎日、どれだけ発電されているかを計算している。今年の六月末現在、一日で最高九十度の発電を記録した。それは九軒の家庭が一日に使う電気に相当し、レストランが七日から八日間使うのに十分な量である。
エネルギーが思うままになるので、「自由」なのである。屋根いっぱいに太陽光発電パネルが敷きつめられたレインボーレストランは最も電気を使う夏を発電のピークに変えてしまった。
洪輝祥は屏東県環境保全連盟の理事長であるが、朝から晩まで省エネを唱えているよりも自ら実践して見せた方が早いと思った。そして、仲間と共に廃校となった台糖幼稚園を「レインボー広場」に変えてしまった。そこではリサイクル、リユース、リデュース、リカバリーという環境保護の原則である4Rを実践している。
永続が必要なのはエネルギーだけでなく生態系も同じである。水が流れる店の表の水路は建物の中の温度を下げると共に多様な生物を育み、手ですくうことができるほどたくさんの小海老が育っている。レストランの横には水槽が設置されてあり、回収された雨水と野菜洗いに使った水は敷地内の草木に撒かれる。
食材は輸入品を一切使わず、パスタでさえも国内産小麦粉を使った自家製である。ほとんどの農産物は「緑農の家」が契約している百軒を超える農家から仕入れている。「レストランを経営する目的の一つは、農家が売れない農産物を消費することなのです」と洪輝祥が言った。それによって採れ過ぎたり見栄えが悪くて売れない問題を解決している。
地元食材を使うのは世界的な傾向
地元の食材を使うのは環境に優しいだけでなく、美味しさが格段に違う。北投の「十米屋」のデザートシェフ蘇怡帆は洋食の手法で地元果物の魅力を引き出している。ガラスケースに入っているデザートは外観は地味だが、口の中に入ると美味しさが広がる。
「私はできあがったレシピに基づいて最適の果物を探しに行くわけではなく、送られてきた果物を食べてその農家と知り合い、その人と農産物に興味が湧いた時、それをデザートで表現することを考えるのです」。陽明山の原種みかんや露の滴る有機イチゴ、ほとんど忘れ去られてしまった酸っぱい台湾楊桃などに出会い、蘇怡帆はとても感動した。シフォンケーキかパウンドケーキ、フルーツタルト、それともパイが最適か、と彼女はそれぞれの味を極限まで表現しようと思考を巡らせる。
いつもたくさん試作して初めて完璧に表現できるものを見つけ出す。季節の果物は変化が大きく、製品にするには難度が高い。たとえば、春のパイナップルは香りがとくに強いので、故意に人工的な味を抑えてその香りを引き出す。雨季のイチゴは薄味なので、ナツメグを使って独特な風味のイチゴタルトに仕上げている。
ふつうデザートシェフがフルーツジャムを使って品質と味を安定させ、それを標準化しているのに対し、蘇怡帆は果物に合わせてオーダーメイドのように作るため、苦労ばかりが伴う。果物を使用できるようにするだけでも膨大な時間がかかる上、ロスも考慮しなければならない。イーストや香料エッセンスなどの添加物を使わないので、製造過程は一大試練である。しかし、それだからこそ、デザートシェフは厨房を飛び出して大自然を理解し、斬新な思考ができるようになるのだと蘇怡帆は思っている。
将来を担うシェフを募る
中華にしろ洋食にしろ、また、最高級レストランでも屋台でも、料理する人は皆、環境に優しくする社会的責任を担っている。これについて、「環島爆米香」の青年オーナー賴咏華は何の躊躇もなく行動に移す。
彼は以前、台湾で数人しか残っていない大先輩に土臼で米を挽く方法を学び、途絶えかけている技巧を伝承しようとした。また、自分で田植えして米農家にもなった。その後、中古のポップコーン製造機を買って軽トラックに乗せ、台湾各地の環境に優しい方法で生産している米農家を訪ね回り、それを使用してポップコーンを作っていた。
「今の若い人は衣食住が外来文化に同化され、世界の他の国の人と変わりがなくなってしまいました。そうでは、台湾人として何が歴史に残るのでしょう?」。米づくりから臼で挽いてポップコーンにする過程で、賴咏華は一般の人に最も身近な米を通して文化に対する自覚をしっかり啓発できることを期待している。
恒春旧市街にある老舗の「白羊道」薪焼き餅店のオーナー陳婉玲は、小さな餅に彼女の地球を愛して止まない心を詰め込んでいる。餅の原料は餅米、粟、ピーナッツ、小豆、胡麻などだが、全て長い間信頼して付き合ってきた有機農家が生産したものである。そして、エネルギー効率が最も高いロケットストーブで餅を蒸す。燃料の薪は材木屋で出る木の切れ端である。「二千元分の薪で三、四カ月は使えます」。ガス代の十分の一でできた餅は格別に美味しいのだ。
二〇一一年、世界各国の有名シェフがペルーで共同宣言をまとめた。リマ宣言である。冒頭で、「料理は変革をもたらす強力な道具であり、シェフであれ生産者、消費者であれ、皆で協力すれば世界を変え、健康的な食生活をもたらすことができる」と謳っている。
「未来のシェフが積極的に社会に参与し、意義と責任を持って公正かつ永続的に社会に貢献できることを信じている」。宣言の中で、シェフが文化の橋渡し役になり、人類と地球の関係を修復し、専門家として大切な知識と価値観を提供できることに期待を込めている。
厨房で理想と現実の狭間で汗を流しているグリーンレストランの経営は容易ではない。このように難しいことは分っていてもかたくなに進む人たちが地球を愛する究極の料理を人々に出している。そういう料理はただ口に入れるだけでなく、考えながら、心して行動で以て味わうべきものなのだ。
(経典雑誌217期より)