慈濟傳播人文志業基金會
◎訳・慈願

 

台湾社会では高齢化がますます顕著になっている。戦後のベビーブームに生を受けた世代の人々は老年期に入り、それに加えての少子化により、高齢者の介護は国民にとって共通の課題となっている。中でも認知症介護は人性と社会福祉の底辺にある。

世界中どこでも六十五歳以上の高齢者の約一割が認知症の危険にさらされており、高齢者の認知症患者人口はそれに従って上昇している。高齢化が原因で起こる多くの疾病の中で、認知症は神経退化性疾病に属し、十年以上かけて死に向かう病である。

認知症は多くの家庭にとって重い負担となっている。仕事に追われる働き盛りの子供たちは、親を世話しなければならない責任を担っているが、病状の進行にどう対処すべきか。心ここにあらずの親。生活能力や記憶が衰え、日常生活も自分ではままならない親に振り回される疲労と悲しみは、大きな精神的ストレスになっている。

治療が不可能なら、医療は認知症患者と家族にどんな協力ができるだろうか? 中西部の嘉義県は台湾でも高齢化指数が最も高く、介護資源は市と村では大きな差がある。

大林慈済病院認知症介護センターでは四年前から嘉義の町や村に入って、認知症患者介護のネットワークを築き、介護の後ろ盾になるように努めてきた。

介護団体は診断や薬を提供して専門的な奉仕をし、また慈済ではボランティアの中から認知症識別ボランティアを育成して、地域に潜在する患者を見つけ出し、定期的に家庭訪問をして、その生活環境を理解している。同時に診察の効率化をはかるため、直接に総合医療看護と関係のある措置を取っている。

中華系民族の伝統的な考えでは、認知症は単なる老化であると誤解されているため、早期予防と治療が困難になっている。慈済病院の認知症介護センターでは、政府と提携し「楽智学校」を設置している。ここでは毎週高齢者に学習指導を行っている。また、医学界と協力して、慈済ボランティアは各地域で「記憶保養クラス」を開いている。これによって高齢者が社会性を高めることができ、また、地域でも年長者に対する関心を深めることができる。

また、家族集会を催して、医療チームが専門的なケア知識を家族にアドバイスし、家族は自分の経験を話し合って息抜きができる場になっている。そして最も身近な者が「見知らぬ人」になってしまった老病無常の無力感に苦しむ、家族にとって支持の力になっているのだ。

認知症介護施設の曹汶龍主任は、認知症と「失うこと」は共通していると言っている。患者が本来持っていた生活能力をどんどん失っていく一方で、チームは家族に協力して高齢者がまだ持っている能力を探し出している。そして患者がこの世界から去った後、残された家族にとって、愛と生命の尊厳を保って付き添った過程が、いつまでも深い思い出になって残るように願っている。

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