プラダーウィリー症候群の子供たちが抱き合って「愛」を表現する姿に、ボランティアたちは感動しました。
キャンプの間はハラハラドキドキでしたが、苦労の汗より喜びの笑顔、心に負担を感じることより温もりを感じることのほうがたくさんありました!
日曜日の午後、高雄静思堂で一泊二日の「プラダーウィリー症候群慈済人文キャンプ」が無事に終わろうとしていました。教室の子供たちは、緊張と期待で落ち着かず、絶えずスタッフにこの後の活動の内容を尋ねます。
別のスペースには家族や友人四十人が到着していましたが、子供たちはそのことを知りません。ボランティアのチームリーダーは事前に言い聞かせました。「もうすぐお父さんお母さんに会えるから、騒がないで……」。両親が教室に入って来て後ろの方に着席すると、前のほうに座っていた敦君は、司会者の開会の言葉を待てません。
立ち上がって叫びました。「お母さん!ここでの二日間、楽しかったよ!お母さん大好き!」 プラダーウィリー症候群の子供たちは、このように単純でこだわりが強いのが特徴です。抑えきれない愛のエネルギーがそこにいた人たちの心に響き、心を激しく揺り動かしました。その場の空気は少し乱れましたが、みんながそれを受け入れました。子供は「愛」を表現したかっただけだからです。
子供の数の数倍ものスタッフ
五つ星級の手厚いケア
時は今年の六月に遡ります。慈済基金会と小胖威利病友関懐協会(プラダーウィリー症候群患者支援協会)が共同で「プラダーウィリー症候群慈済人文キャンプ」を行いました。初めて病院から高雄静思堂に場所を移したキャンプ。ボランティアは慎重に計画を練り、準備のため七回の会議を開きました。そして、イベントの一週間前の八月十四日にはチームリーダーを担当する六十人の慈済ボランティアが集中トレーニングコースを行いました。
プラダーウィリー症候群の子供を持つ荘さんが事前に招かれ、ボランティアに対し、子供たちに起こりうる状況を説明しました。「プラダーウィリー症候群の子供は夜中に起きて盗み食いしたりしますか?」「するわよ!寝付きはいいいんだけど、朝まで寝ていると思っちゃいけないわ。ちょっと目を離した隙に、すぐに食べ物を探しに行くの。だから親は冷蔵庫やキッチンに鍵をかけているの。うちは部屋のドアに鍵をかけてるわ……」
荘さんはボランティアに対し、キャンプの間、子供たちは食べ物をほしがるけれど断固として拒否してほしい、ルールを作ってしまえば、実は子供たちはきちんと守るのだと言いました。
プログラム担当ボランティアの頼裕鈴さんはこう話しました。「このような子供たちをサポートするには、私たちでは力不足ではないかと心配して、専門家にお願いしたんです。しかし、学ぶ過程で子供たちの行動能力は私たちが思っているほどよくないことが分かり、より簡単に分かりやすくなるようにと、絶えずプログラムを修正してきました。」プログラムは、子供たちが達成感を得られるように、体を動かしたり、自ら手を動かして何かを作ったりする方向で組みました。
五歳から二十歳過ぎまで、たった十五人の子供たちに対し、百七十三人ものスタッフが動員されました。一人の子供に、お父さん役かお母さん役の二人のチームリーダーがキャンプ全体を通して付き添い、食事面は栄養士が、健康面は慈済人医会が管理しました。プログラムは知育に富むもので、子供たちの恐怖や見知らぬ場所での不安を和らげるよう雰囲気作りにも気を配りました。このように入念な準備をしたのは、一年中苦労している保護者に一息ついてもらいたいという思いやりの心からです。
幸せを感じたら手をたたこう
キャンプ初日の八月二十日午前九時,保護者と子供たちが続々と到着し、果物の形の被り物を被ったボランティアが整列して出迎えました。高雄区慈済人医会のメンバーが子供たちが使う処方箋や医薬品を受け取った後、チームリーダーが保護者に二日間のプログラムを説明し、保護者から子供の生活習慣と注意事項について聞き取りを行いました。
チームリーダーの林彦璋さんは、熱心にメモを取っていました。初めは不安に思っていた彼も、保護者の話を聞いて少しずつ自信が出てきました。「詳しいことを知れば知るほど、子供たちとどうやってコミュニケーションを取ったらいいか分かってきました。自分の責任を果たして子供をしっかり世話することで、子供たちに楽しく過ごしてもらい、ご両親にもゆっくり休んでもらいたいと思いました。」
保護者の中には初めて子供と離れた人もおり、離れがたく、心配に思ったのは無理もありません。教室の窓越しに、チームリーダーと子供たちとのやりとりを見守っていましたが、ほどなく携帯電話で写真を撮り始め、安心の笑顔を見せるようになりました。
プログラムは、子供たちの意識が食べ物に向かないように、動きのあるものを主体にしました。授業の合間の時間には、リズムに乗って体を動かし、教室には軽快な音楽が響き渡りました。年配のボランティアも子供たちと一緒に踊りました。手を上げて、回って、しゃがんで、ジャンプして、とまるで子供のころに戻ったかのようです。ボランティアの簡素霞さんはこう話します。「子供たちとアクティビティやゲームをしていて、一番楽しかったのは実は自分自身だったと思います。」
プラダーウィリー症候群の身体的特徴は、目つきがとろんとしていて、動作が遅く、手脚が細いことです。四肢の力があまりなく、バランス感覚にも欠けているため、大きな動作は難しいのですが、それでもみんな楽しそうに踊っていました。大人気だったのは、『幸せなら手をたたこう』という軽快な曲です。子供たちは一度踊った後、もう一度踊りたいとねだり、何度も踊っても疲れませんでした。
チームリーダーの劉淑禎さんはもうすぐ小学一年生になる廖君に付き添いました。言葉でうまく意思表示ができず、体も弱くじっとしていられないため、劉さんはしばしば廖君を抱いて落ち着かせ、一時も気を抜くことができませんでした。その後、二人のお父さん役の男性チームリーダーが廖君のサポートに加わり、彼を追って部屋中を駆け回ることになりました。ボランティアたちは、両親が長年に渡りどれだけ苦労してきたかを実感し、このようなキャンプを行うのは確かに大変だが、とても意義があることだと感じました。
帰ったら両親にありがとう
キャンプ中は、高雄慈済人医会のボランティアが基礎運動能力、食事のコントロール、口内衛生と検査の三方面を担当し、子供たちに運動や歯磨きをさせ、保護者の負担が軽くなるよう、自己管理と健康維持について教えました。
活動はプラダーウィリー症候群の子供たちの家庭に役立っただけでなく、ボランティアにとって、どのように彼らと接すればよいかをより深く理解する機会になりました。あるチームリーダーは、こう語りました。「子供たちはうまく意思表示をできないかもしれないが、彼らが気持ちを表現する権利は尊重しなければならないこと、『平常心』を持って接するべきで、『特別』だと思ったり『区別』したりすれば、逆効果になることもあり得ることに、二日間の活動を通して気づきました。」
子供たちが抱き合って愛情を示したがったことにも、チームリーダーたちは感動しました。キャンプの間はハラハラしましたが、苦労や心の負担を感じることよりも笑顔や心温まる出来事のほうが多く、チームリーダーを引受けて本当によかったと感じました。
「子供たちの一番素晴らしいところは、私たちが耳ではなく自分の心で聞けるようにしてくれたことです」。こう話すチームリーダーの陳昱豪さんは大学を卒業したばかりで、キャンプ活動の経験がなかったわけではありませんが、今回はずいぶんと勝手が違いました。今までよりもずっと注意を払って、彼らがいかに体を使って気持ちや考えを表現するのかを体得しなければならなかったのです。
陳昱豪さんは今回のキャンプに参加できたことを喜んでいました。最大の収穫は、両親が心を砕いて彼らを世話していることが分かり、自分も小さいころ、家族からこのように守られて育ったことを思い出したと言います。「家に帰ったら両親にありがとうと言いたいです」。彼は心からそう言いました。
子供たちが愛を教えてくれた
二日間のキャンプの様子をまとめたできたてほやほやの動画。子供たちと両親とでそれぞれ違う思いを持ってこの動画を見ました。子供たちは、仮面舞踏会の扮装をする自分たちを見て、恥ずかしがってクスクス笑います。両親は一生懸命学んでいる子供たちの姿に、はらはらと涙を流しました。
続いては簡単なお茶をふるまう儀式で、育ててくれた両親の恩に感謝することを子供たちに教えます。お茶を運ぶ手は、普段は常に誰かのケアを必要とする手です。しかし、今はいたわりを覚え、抱き合うことを覚え、感謝を覚えました。両親に手渡された手作りのカードとプレゼントは、字は乱れているし、決してきれいとは言えないかもしれませんが、子供たちの愛の印です。プレゼントを受け取った両親が子供たちを抱きしめた時、万感胸に迫るものがあったことでしょう。
式典の最後には、ある子は疲れて我慢できずに机の上に突っ伏して寝てしまいました。別れの前、司会者は舞台下の保護者たちに「感想をシェアしてみたい方はいませんか?」と尋ねてみました。すると思いがけないことに、誰もが語り尽くせぬ感動を持っていたのです。気持ちが高ぶりうまく言葉にならないながらも、小胖威利病友協会と慈済ボランティアに対する尽きない感謝の気持ちを話しました。
「赤の他人の皆さんが、私たちの子供をこんなに愛してくれるなんて思いもよりませんでした!」、「私たちが休めたことより、子供たちが人文キャンプで成長したことが最大のプレゼントです!」、「慈済に感謝しています。慈済の皆さん以外には、プラダーウィリー症候群的子供を受け入れてくれる人はいません」。多くの保護者があふれ出る感情を抑えることができず、ついには子供と同じように、勇敢に「愛と感謝」について話したのです。
手を振って別れても、すべての「愛」は続きます。子供も、両親も、ボランティアも、すべての人がここで出会ったことで、どうやって他人に愛を差し出したらよいかを知ったからです。
(文/章碧雲、張貴珠、林清雄、王瀅琇、李秀裡、林宝華、李孟倫、鍾文英、蔡鳳琴、王淑蓮、林佳燕)
「プラダーウィリー症候群」について
「プラダーウィリー症候群」は、先天性の珍しい疾患で、治療は不可能だとされています。
15番染色体の欠陥から満腹感が持てず、食欲をコントロールするのが困難です。また、知能、身体、情緒、言語、学習等の多重障害があります。
「食べても食べても満腹感が得られない」ことがこの疾患の最大の特徴です。
「小胖威利病友関懐協会(プラダーウィリー症候群患者支援協会)」理事長の蔡立平氏によると、プラダーウィリー症候群の子供は出生時から肌の張りが不足しています。また、体内の「NDNタンパク質」が正常の人より高く、脳を刺激するので、食べるための様々な異常行動を引き起こすのです。
「子供は我慢できずに食べ続け、食べ物を買うためにお金を盗んだり、ゴミ箱をあさったりすることさえあります」と蔡立平氏は言います。食べ続けることで過度の肥満になり、体質的に新陳代謝率が低いこともあって、メタボリック症候群、糖尿病、高血圧等の疾病を引き起こしやすくなります。保護者は冷蔵庫に鍵をかけでもしなければ、食べ過ぎを防げない場合もあります。このほかに、感情のコントロールが苦手で頑固なのもプラダーウィリー症候群の患者の特徴で、ちょっと気に入らないことがあると癇癪を起こすこともあります。
両親は子供の世話をするために、ほとんど1年中24時間休む暇がなく、その苦労は計り知れません。台北慈済病院小児科主任でもある蔡立平氏は、保護者の心身共に疲弊した姿を目にして、リラックスできる機会を作りたいと、何年も前から「レスパイト・キャンプ」を台北、台中慈済医院で実施しています。そして、今年8月20、21日には高雄で初めて行われました。
|