過ちを犯し 自由に別れを告げた
刑務所の中は 外とは別世界
約束する 絶対にここへ戻らないと
慈済ボランティアは刑務所の受刑者と出会う。
それぞれのは試練を乗り越えていく過程を
お互いに大切にしなければならない。
受刑者は、善と悪が綱引きする中で勇気を奮い立たせ、
諦めずに頑張れば、人生をやり直すチャンスがある。
一方、ボランティアは、光と闇の世界を出入りして、
常に自分の初心を確かめながら、
自ずと尊重と慈しみを体得できる。
法務部矯正署の最新の統計によると、二〇一七年七月現在、台湾の更生機関には六万二千四百四十五人が収容されている。五千五百六十八人も定員を超過している。受刑者のほぼ半数が薬物常用者で、再犯率が高く、入出所を繰り返している。
更生機関の定員超過の状況は、すでに長年の問題である。政府関係者が二十年以上前に静思精舎を訪れ、「刑務所が不足しており、増築する必要がある」と話したことがある。その時、證厳法師は「法律で犯罪を防ぐのは非常に難しいことです。犯罪を減らす方法はただ一つ。良知を啓発することです。刑務所を建てるよりも、学校を建てた方がよいのではないでしょうか」と述べた。
台湾の監獄行刑法第一条に、「懲役や拘禁の執行により、受刑人が悔い改め、社会生活に適応できるようにすることを目的とする」と明記されている。宜蘭刑務所の謝琨琦所長も、「刑務所は単に犯罪者の自由を拘束し、社会から隔離させる目的だけでなく、教化する役目があり、過ちを犯した人が改心して社会に復帰できるよう支援する場所であるべき」と認識している。
ネットの時代では、一日に膨大な量の情報が千里を駆け巡る。長年、刑務所で生活を送った受刑者が出所し、すっかり変わってしまった世界に溶け込めないことは、社会問題となっている。中には、社会に復帰できずに元の道に逆戻りし、家族の期待を裏切って、悲しませてしまうということもある。そのため、謝琨琦所長は、慈善団体や宗教団体が刑務所で受刑者に寄り添い、早めに社会に適応するよう支援することに賛同している。
2017年7月末現在、
台湾全土の定員56877人の更生機関に
62445人収容されている。9・8%の超過だ。
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これらの「学校」は風景も普通の学校とは異なっている。かつて花蓮刑務所で刑に服していた偉さんは、「窓から空を見ると、縞模様になっていました」と語った。刑務所を学校と同等に扱うことはできないが、受刑者の人生の方向を正す手伝いはできるかもしれない。
真剣に学び、
卒業したら親孝行しよう
台湾における更生機関は、刑務所、留置場、薬物依存更生施設、少年院、少年鑑別所など五十カ所以上に上る。慈済基金会の最新の統計によると、二〇一七年一月から六月までの間、延べ四千人の慈済ボランティアを動員して二十数カ所の更生機関を訪問し、半年間でおよそ四万二千人の受刑者をサポートしてきた。
慈済ボランティアは勉強会を催し、慈善に関する経験談や職業訓練などを行っている。また、家族に手紙を書くように励ました。中には慈済に宛てて手紙を送ってくる人もいる。手紙を受け取ると、ボランティアは喜んで一通一通に返事を書き、励ましている。
受刑者は親の健康が心配でも、焦燥に駆られるだけで、何もできず、悩んでいることが多い。慈済ボランティアは、手紙のやり取りを通して受刑者の気持ちを落ち着かせ、家族の状況を理解する。必要であれば代わりに家族を訪問し、家族の生活を支援することもある。受刑者が安心して刑に服し、将来改心して新たな人生を歩むよう期待している。
女性受刑者が「おばあちゃん」、「お姉ちゃん」と慕う女性ボランティアは、彼女たちにとって力強い支援者だ。
花蓮刑務所付属正徳高等学校で勉強している受刑者の張さんは、卒業式の時、多くの同級生の家族が来ていたが、自分だけ誰も来てくれず、寂しい思いをしたと話す。「その時、神さまが私の心を読み取ったかのように、突然、何人もの慈済ボランティアが壇上に上がってきて、私が卒業証書を受領したのを喜んで、一緒に写真を撮ってくれ、内心の切なさを和らげてくれました」
宜蘭刑務所で指導員をしている頼文玲さんは、「一度罪を犯すと、烙印を押されたかのように、軽蔑の眼差しを向けられやすいため、人生をやり直すことは容易ではありません」と指摘した。かつて受刑者だったある慈済ボランティアが、刑務所で自分の過去の経験を話して分かち合う時、「刑期を終えて出所した後、常に『悪人』という二文字が付いて回ります。もし、その運命に打ち負かされたくなければ、努力して社会復帰を遂げたことを見せるしかないのです」と言いきかせた。
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●中和と永和の慈済ボランティアは長年、台北刑務所で受刑者に付き添って来た。紺と白の制服の隊列は、台湾全土の更生機関で見かけられる。愛で刑務所の高い塀を突き抜け、忍耐でさまよった心を感化することを願っている。(撮影・蕭耀華) |
台湾全土の慈済ボランティアネットワークによって、近くに住む受刑者やその家族に付き添うことができる。受刑者が出所した後、犯罪更生者で組織する慈済のボランティアチームが、彼らの社会復帰に付き添う。出所した更生者は、積極的に慈済に連絡し、新しい人生の起点として社会に恩返ししようとする人も少なくない。
宿命ではない
迷いから正道に返る
「人生で最大の懲罰は後悔である」という静思語は、受刑者の心境を如実に表している。新竹刑務所にいる受刑者の周さんは、慈済ボランティア宛ての手紙に、「慈済の読書会に参加したり、出版物を読むと、私は過去の自分の行いや物事を振り返って反省することがよくあります。私は十代の頃から刑務所に出入りして、今はもう四十歳を過ぎました。『受刑者』という名札が一生取れないと感じています」と綴っていた。台湾の北から南まで、無数の刑務所に出入りしてきた彼にとって、唯一違うのは、各刑務所の「囚人服の色の違いと監房のルームメイト」だけだった。
もらった一通一通の手紙はみな懺悔の涙に濡れていた。中には、熟練した文章や、達筆な文章、深く反省している人もいる。いったい何があって刑務所に入る羽目になったのだろう、また、どうして懺悔する気持ちになったのだろう、と思わずにはいられない。
また、慈済に寄付するために切手を同封してくる受刑者も多い。刑務所内で慈済の出版物を読んで、善意が啓発され、人生を変えたのである。
「教化すれば人の心は啓発することができる」ことを、多くの受刑者の行いが証明している。しかし、そのような社会奉仕の仕事は容易ではなく、受刑者を本当に更生させるには、本人の固い意志だけでなく、我々の更生者に対する態度や眼差しがもっと重要なのである。
慈済ボランティアが刑務所内で行っているのは、問題が起きてしまった後のケアである。それよりも、日常生活の中で善を啓発し、人心を浄化させ、罪を犯さないよう予防することこそが、慈済が半世紀以上にわたって行ってきた慈善の初心でもあるのだ。
(慈済月刊六一一期より)
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