ゴミではなく資源である
二〇一一年にスウェーデン政府は新しいハイテク環境保護計画を打ち出した。期間は四年で、環境保護に関するハイテク技術の研究開発に毎年約十億円の資金を拠出した。また、政府は環境ハイテク会社を後押しする環境を作り、資金援助や優遇策で企業がグリーンテクノロジーの開発を続け、それを輸出することで利益を得ることを奨励している。政府の支援のほか、民間のミストラ基金会も加わって、毎年約二十億円を成長するハイテク会社や研究機関に投資している。スウェーデンの統計局によると、現在環境ハイテク産業に従事している人口は四万人を越え、毎年約一兆二千億円の市場を創出している。先月の上期で紹介したエンバック社はスウェーデン環境政策の参加企業の一つである。
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リサイクルは非常に重要な課題であり、ゴミ箱はバブリックアートになっている。 |
同社は先進の真空技術と機械を使って企業や団体、ジャーワ地区の家庭ゴミを収集している。例えば、住民が壁の中に入れた家庭ゴミは真空システムによって自動的に会社のリサイクル場に送られ、分類され処理される。
「住民は家庭の生ゴミや紙類、瓶、缶、回収できない廃棄物などをそのままエンバックのリサイクルビンに入れればいいのです。そして今私たちはそのリサイクルビンの側に立っていますが、鼻をつく異臭は全くしません」とマーケット・事業開発担当の上級副CEOジョナス・トンブロムが説明した。
今までのゴミ箱は見た目が悪い上、すぐに悪臭を放つ。同社が提供するリサイクルビンはデザインが斬新で、定期的に空気の圧力によって自動的にゴミを清掃するため、異臭を放つことはない。このように特殊な設計が施されたリサイクルビンだけでなく、リサイクルセンター自体が特殊で、全てが自動化されており、作業員が一人もいない。機械が自動で作業し、モニターしながら集めたゴミを処理しており、全く人手がからない。
完成度の高い真空回収システムは世界中の政府機関や民間企業や団体の目を釘付けにし、使用されている。例えば、北京のワールドセンターやシンガポールの黄廷芳総合病院、カナダケベック州の住宅街やデパート、そして台北の101ビルもこのシステムを使用している。
自動化された真空回収システム
ゴミは分類、梱包されてリサイクルビンに入れられた後、しばらく貯蔵される。リサイクルビンは定期的に自動的に空にされる。機械が気圧差を利用してゴミを地下に張り巡らされた管を通って、リサイクル業者エンバック社のリサイクル工場に送り、分類と処理が始まる。ゴミは地下で送られるため、異臭がすることはない。
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室内の壁に取り付けられたリサイクルビンは梱包したゴミをそのまま入れることができる。
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エンバックの屋外リサイクルビンは一般大衆が使い易いように設計されている。
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エンバック社のリサイクル工場は全て自動化された機械で制御されている。 |
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大衆はエンバックが提供している様々な色のゴミ袋を使ってゴミを分類している。 |
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機械はゴミ袋の色によって処理している。
(図・エンバック社)
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ゴミを輸入する
外国からの舶来品といえば、斬新奇抜な物かロマンチックで異国情緒のある流行品というイメージが湧いてくる。しかし、スウェーデンが輸入している品目の中に思いもつかない物が一つある。ゴミである。
「ゴミは最も価格が安い燃料なのです」。これはWTE(ゴミからエネルギー)という概念である。WTEはスウェーデンの資源回収政策の中で非常に重要な項目の一つである。その目標は回収して再利用できないゴミの解決である。現在スウェーデン国内には三十二基のゴミ焼却炉があり、ゴミを焼却してエネルギーに換えて、熱エネルギーと電力を二十五万世帯余りに供給している。徹底した政府の資源回収政策の実施と民衆のリサイクル意識の高さにより、国内で発生するゴミはほとんどリサイクルされているが、全ての焼却炉を稼働させるにはかなりの量が不足している。そのため、スウェーデンはなんと毎年外国からゴミを輸入しているのである。
スウェーデン廃棄物管理回収協会の統計によると、二〇一五年だけでスウェーデンは外国から百五十万トンのゴミを輸入しており、二〇二〇年には二百三十万トンに達すると予測している。主なゴミの輸出国はノルウェー、イギリス、イタリアで、これらの国はスウェーデンにお金を払ってゴミ処理をしてもらうが、政府は焼却して得られるエネルギーを販売することができ、一石二鳥なのである。ストックホルム市郊外のブリスタエネルギー工場はゴミが金になる商売だと見込んだ。
「以前は毎年三十五トンの木材を燃やしてストックホルム市北西地区の住民の日常生活に必要な熱エネルギーを供給していました。燃料の使用率は九十パーセントに達していましたが、工場の運営は大変でした」とブリスタエネルギー工場の責任者マッツ・クラーソンが説明した。「新しくCHP(電熱供給システム)工場を建設したゴミを焼却して熱と電気を産出しています」
CHPエネルギー工場でゴミを燃やして得られた熱エネルギーで湯を沸かし、総延長線二百六十四キロにもなる地下に張り巡らされた熱供給網になり、地域の各家庭に供給されている。お湯が住宅に送られた後、使用済みのお湯は再び工場に回収され、そこから分離された熱エネルギーが再利用される。
ゴミを焼却してエネルギーを得る方法は斬新であり、化石燃料への依存を低める、また国内のゴミを減らすこともできる。しかし、大量に物質を焼却する過程で多くのCO2と有害物質が発生する。このような方法は環境保護と言えるのだろうか? スウェーデン政府はゴミの焼却による排気の九十九パーセントは無害であると保証しているが、環境保護団体は懐疑的だ。
「今はゴミ焼却という方法は確かにCO2の総排出量を抑えることはできませんが、それ故に地球規模での補償制度を打ち出しました。支援活動を通じて工場から排出される温室効果ガスに対して補償するものです。すなわち実質的には当地区の社会福祉の向上や生物の多様性を護っているわけで、工場周辺の湿地は現地の生物の多様性を保護している一例です」とブリスタ永続部門主任のインゲラ・ロナーマークは窓の外に見える青々とした緑地を指して言った。
しかし、それだけでは終わらない。ゴミが焼却された後に残るのは無用の灰であるが、スウェーデン人はその灰をも捨てることなく、先端技術で灰の中から使用できる物質を取り出し、企業に販売して利益を上げているのである。
「再利用できる物は何でも無駄にしたくないのです。使用済み核燃料以外のほとんどのものを回収しています。家庭ゴミ、汚水、汚泥、廃棄溶剤、金属廃棄物など全てが会社の業務対象です」とランセル永続部門の責任者ラーシャンス・パーが説明した。
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処理した後の廃棄物は筒状の貯蔵庫に入れられ、漏れ出さないようになっている。 |
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掘削技術を応用して廃棄物から燐や塩などの使える物質を取り出している。 |
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種類の異なる回収物を入れる色分けしたリサイクルビンが置かれている。 |
使用済み核燃料以外は
何でも回収する
この会社の営業項目は非常に多く、一般的な資源の回収から危険性を伴う廃棄物や注文生産した物の廃棄物などの処理全てを行っている。この会社のリトルグリーンマン商標はストックホルムの至る所で見ることができる。
「会社が回収する廃棄物は八百種余りに及び、それぞれの廃棄物は異なった技術で処理する必要があります。そこで会社は大量に技術開発方面に投資しました。そうして生まれた技術の一つが、イージーマイニング技術というもので、灰の中から燐と塩を取り出すことができます」と技術担当主任のパトリック・エンファルトが説明した。
燐は非常に重要な化学元素で、リン酸カルシウムやリン酸アンモニウム、塩化鉄、塩化カルシウムなどの化学物質を作り、飼料に使う添加物や肥料、石膏などの原料となる。イージーマイニング技術は廃棄される灰から燐を取り出し、生産工程で再利用することができるのである。例えば、鉱山で燐が採掘された後、一般的には肥料工場に送られ、農業に提供される。農家で生産された農産物は消費者が消費した後、再び廃棄物となって廃棄物処理場とエネルギー工場に送られて処理や焼却が行われる。最後に残った灰から再び燐を取り出して肥料工場に売却され、もう一度、工程に入れられるわけである。
「ゴミが処理場に運ばれた後、作業員は性質の異なったゴミを分別し、異なった技術で処理します。例えば、低温処理技術で濡れた廃棄物を凍らせ、その後自然に融けるのを待って使用できる物質を取り出すのです」とパーは解凍したゴミの山を指差した。
このヨーロッパ最大のゴミ処理場は各方面から持ち込まれる廃棄物を処理しており、その規模の大きさは驚くほどだ。処理場の役目は有害物質の処理や利用できる物質の探査だけでなく、一時的な貯蔵の役目も果たしている、とパーが説明した。廃棄物の中には今の段階では良い解決方法がないものもあるが、近い将来、新しい科学技術で適切な処理が可能になり、会社に利益をもたらすだろう、と彼は信じている。
今のスウェーデンはすでにかなり完成度の高い資源回収を行っているが、環境保護局はさらにゴミ税を引き上げることを模索している。責任者のハンス・ラードは「これは大衆のリサイクル意識を高めるのに役立つはずです」と言った。環境保護局は政府と民間が積極的に協力し、環境保護政策を推進することで、生産者がより耐久性のある商品を作るよう奨励している。このほか政府は広告に協賛する形で、リサイクルの概念を宣伝している。「もし製品の使用年数が長くなり、含まれている有害物質が減るなら、それらのゴミを処理する時コストも下がることを意味しています」とラードが付け加えた。
廃棄物は今はすでに回収(Recycle)、還元(Recover)、再利用(Reuse)を達成しているが、それではまだ足りない。人々が自発的に環境を尊重(Respect)し、積極的にゴミを減らす(Reduce)ことができて初めて、人類は真に永続する未来を築くことができるのである。
この数日の間に見聞きして来たことを思い出しながら、私は飲み干したコーヒーの紙コップをゴミ箱に捨てた後、ここから永続の旅が始まるのだと感じた。
捨てられた紙コップは回収、分解、焼却されて最後に灰になる。そして、灰になってから中に含まれている物質が新生児のように再び発掘され、真新しい工程に加えられて循環していく。午後五時、退勤者と学生たちが自転車に乗って歓談しながら、規則正しく道を横切っていた。
都市農業、地区建設、資源の回収からエネルギー工場まで多岐に渡っているが、ここにスウェーデン人の永続精神が見て取れる。スウェーデンは世界で最も環境保護に力を入れている国であり、エコロジーの模範であると言っても過言ではない。それは永続DNAがすでに彼らの心に芽生えているからである。
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ゴミ収集車が街を走り回って効率的に家庭ゴミを収集している。(写真/Sonia Sabe/Imagebank.sweden.se) |
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フォークショベルカーで積まれた大量の紙類は最終的には再利用される。
(写真/SRV Srvatervinning)
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スウェーデンには3000基余りの風力発電機があり、全国の7パーセントの電力が風力で発電されている。2022年には再生可能エネルギーが総エネルギーの50パーセントに達する目標を立てている。 |
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