ヨルダン王国はアラビア人が人口の大半を占め、人口の九割以上がイスラム教を信仰している。近年、一六〇万人を超えるシリア難民を受け入れているが、その一方で、領土内に住む遊牧の民ベドウィン人は今もなお原始的で難民よりも苦しい生活を送っている。慈済ボランティアは十三年前からベドウィン人の四つの集落で貧困救済活動を行っている。救済活動では三百キロの距離を車で駆ける。その度に過酷な気候の試練や宗教信仰の違い、人手不足や物資不足などの難題にぶつかるが、ボランティアはひるむことはない。なぜならこの広い砂漠で自分たちを待っている人たちがいるのを知っているからだ。
砂漠に点在する人々
黄砂が巻き上がる砂漠の道路を南へ数時間走らせると、辺りの景色はますます単調になってくる。遠くに目をやると、果てしなく続く砂漠にぽつぽつと点在する人家が見える。付近には電線もなく木や草もほとんど生えていない。ヨルダンに居住する遊牧の民ベドウィン人は、古来その一生をこの荒野で遊牧して過ごしてきた。灼熱の砂漠の気候に適応し、羊や駱駝を飼い、狩猟生活を営んでいる。観光客の落とす金が収入となることもあるが、ほとんどの家庭は貧困に喘いでいる。
今年の五月中旬、慈済ボランティアは朝早くから首都アンマン市を出発し、南に向かって車を走らせた。六月のイスラム教の斎戒月より前にベドウィン人のケア対象家庭を訪問し、定期支援物資を渡すためである。灼熱の砂漠での活動で、熱中症にかかるボランティアもいた。
配付への遠い道のり
ボランティアはグループに分かれ、二日間でベドウィン人が居住するツグラ、アバシヤ、ワディ・フェナン、ワディ・ルムの四集落で支援物資の配付を行う。これら四集落では十三年前から配付活動を行っており、米、砂糖、油、豆、紅茶、ココナツ、ゴマペーストなどの物資を合計二百四十世帯に配付している。
ベドウィン人の女性はイスラム教の教えを厳格に守り、外へ出るときには目だけを除いて全身を黒い布で覆う。美しい自然景観が広がるワディ・ルムはヨルダン有数の観光名所で、ここに住むベドウィン人は観光客相手の商売をして生計を立てている。
教育に投資する
内戦により故郷を逃れヨルダンで避難生活を送るシリア難民のワッファ(右上の写真の一番右)は初めてベドウィン人への支援配付活動に参加した。貧しい生活を送る子供たちとの触れ合いを通して、自分が今持てるすべてのものに感謝した。
大人たちが配付物資を受け取っている間、元教師の慈済ボランティア、リリー(左の写真の一番左)は子供たちに慈済のことを紹介している。子供たちは興味津々でリリーの話を聞く。
慈済は成績が優秀な子供たちを何人か支援して、外地の学校へ進学させてきた。すでに卒業しアンマンやアカバなどの都市で就職した青年、あるいは故郷へ戻って教員をしている青年もいる。
客を待つ
ボランティアは季節の変わり目ごとにヨルダンから遠路はるばるベドウィン人の居住地にやって来て、支援物資の配付を行っている。配付が終わると、互いに気心の知れた友人となったベドウィンの人々と別れを惜しみながら帰途につく。青いシャツと白いズボン―藍天白雲のボランティアの姿を彼らはずっと忘れない。
配付を終えアバシヤの頭目を訪問したボランティア。ベドウィンの男衆が熱烈に出迎えてくれた。みんなで絨毯の上に座り、お茶を飲みながら世間話をし、彼らの近況を聞き、次回の活動の参考にする。
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