長年診察室で患者さんと向き合っていると、心に悩みを抱えて助けを求める人に出会うことがあります。衝動的に家族に対して言ってはならないことを口走ってしまったと後悔している人、ほかにも、両親が生きている間に親孝行しなかったことを悔んでいる人、人生の道を捜し続けていてもなかなかその道が見つからないと嘆く人もいました。
『生命の和音』という本の主人公たちは忙しい仕事の合間に、自主的に利他のボランティア活動に参加しています。彼らの生命に対する取り組みは、人の心を触発するに足るものであり、如何に毎日を輝いて過ごしていくかを選択していると言えます。
今年の六月中旬、私は芳霈さんに新作の序文を書くことを頼まれました。誰よりも早くこの新作を読むことができると喜んだのもつかの間、限られた時間で完成できるかどうか心配になりました。
細やかな味わいのある感動的な人生物語ですが、本の中でゲストを尋ねて深く洞察するところがあり、私にとってはとても貴重な人生の教本となりました。主人公は政府高官でもなく、ネット有名人でもありませんが、彼ら自身の日常生活に起こることは、多くの人を触発し啓発を与えています。以前その名前を聞いたことがあるボランティアの話しもありましたが、注意して読む中、このように謙虚で控えめな修行者達は皆、心から尊敬したくなる生き方をしてきたのだと分かり、元々心身ともに疲れていた自分にとって大きな励ましになりました
すっかりこの本を読みふけってしまい、気がつくと父の日の早朝になっていました。携帯電話でSNSを開けて見て、自分が三日間も友人からのメッセージを見ていなかったことに気がつきました。そこには一人のクラスメートが胸の痛みで病院に緊急搬送され、すでにこの世を去ったことが知らせてあったのです…海馬が記憶を巻き戻し、次々といろいろな場面が脳裏を駆け巡り、そして私の父が往生する時のことを思い出しました。
突然脳卒中に襲われた父を目の前にして、医師である私は、感情と理性の綱引きに陥っていました。息子としての私はもっと時間を作って父の傍に着いてあげるべきだろうか、それが親孝行と言えるのだろうか、家族だと思う時間と病人だと考える時間の割合を如何に分配すればいいのだろうか、そして自分は息子の役割と医師としての責任を遺憾なく、発揮しているだろうか、と考え込んでしまったのです。
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作者・蘇芳霈
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長年診察室で患者さんと向き合っていると、心に悩みを抱えて助けを求める人に出会います。お金を持っているかいないかだけでなく、様々な職業の人もいます。悩みはそれぞれ似通っていますが答えを求められるのには困ってしまいます。身内の人に言うべきではないことを言ってしまったと後悔する人、両親が生きている間親孝行しなかったことを悔んでいる人、あるいは、忙しく人生の方向を捜し続けても、なかなか見つからない人がいるのです。
芳霈さんに感謝します。彼女のお陰で新作の序文を書くという仕事が与えられ、否応無しに時間を作って人を感動させる物語を読む機会に恵まれたのですから。
梁崑將夫婦は大自然の教育のため、三十年間も種を保存して、ついに願いを叶え、五感体験のできる「千区画シードパーク」を立ち上げました。
山が好きな謝金龍は、人助けをする熱血青年です。歯医師になった後も、慈済人医会に入り、更に一台のジープを購入して、山や辺鄙な所に行って人助けをする夢を叶えています。
四十五歳になってから漢方医学の勉強を始めた廖明煌は、週に六日間、患者を診察し、日曜日には慈済の活動に参加していて年中無休ですが、彼は針灸の技法に科学と美容を取り入れ、海外の施療活動で十四年間も歩けなかった人を歩けるように回復させました。
カンボジアの慈済ボランティア謝明勳は、救済活動に参入したことをきっかけに善良な仏心を啓発され、困難な環境下で支援者を探し続けています。僅かなお金でも大きな善行できると呼びかけ、皆を率いて環境保全をし、慈悲の心で以て人医会を招くなど、その志は変わっていません。
人生の主役たちそれぞれの、生活と人生に向き合う姿を、私は印象深く胸に刻み込みました。特に、この本の中の人物たちは皆、忙しい仕事の合間を縫って、進んで利他のボランティア活動に参加しているのです。
慈済の道では大勢の同道者が寄り添ってくれます。現実の生活の中では当然ながら様々な試練は避けられず、生老病死の中で輪廻します。明日が來世であるなら、今日を如何に過ごしていくべきでしょうか。
あの夜、私は臨終の床に就いた父を見守っていました。長年、精神科の臨床経験で患者の対応説明もできる筈なのに、自分の身内となると、心の痛みを隠して感謝とさようならを言うのがこれほど難しいとは思ってもいませんでした。滲む涙の中に、父が私の事を心配しているのが分かり、もうすぐ博士の学位を取得できるよと告げた後、安心したようでした。
私は永遠に父の言葉を忘れません。「皆があなたを信頼している以上、良い医師になるように、患者の期待を裏切らないようにしなさい。」と。私はこの人生で慧命を成長させ、情が通う衆生に光を当てることを誓います。
(慈済月刊六二三期より)
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